“異世界もの”コンテンツは日常系?

 ガンダム好きの中央大学国際情報学部の岡嶋裕史教授は、今年1月に角川書店からマニアックな著書「ジオン軍の失敗」と「ジオン軍の遺産」を出版した。編集を担当した角川出版の松坂豊明さんと制作秘話を語った。5回続きの2。

対談(1):ガノタの岡嶋教授、新著の裏話を編集者と語り尽くす

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 岡嶋 いま、出版シーンでは、どんなコンテンツが売れているんですか?

 松坂 異世界はもちろんですが、日常系も根強い気がします。

 岡嶋 日常系! まだ続いてるんですね!? 松坂さんもご覧になりますか?

 松坂 好きですよ。仕事が終わってほっとしたいときとか、すきま時間で楽しむのに最適です。

 岡嶋 確かに、何かコンテンツを楽しもうとするときに、すきま時間で鑑賞したりプレイしたりすることは増えましたよね。スマホやタブレットでネットワークに常時接続しているのが当たり前になって、仕事にしろ遊びにしろ24時間体制じゃないですか。

 ぼく、子どもが中学生なんですけど、23時とかに先生から「ごめん、出し忘れた宿題があった♪」なんて連絡が来るんですよ。

 松坂 なんてブラックな(笑)

 岡嶋 ぼく自身も学生さんから日付が変わるころにエントリーシートが送られてきて、「明日締め切りなんで添削してください」とか言われてますけど。頼む方も頼まれる方も、休みなく稼働してるなーって。そういう環境でちょっとほっとしたいときに、導入に時間のかかる遊びはできないですもんね。学習コストの小ささは大事かもしれません。

 導入の100ページを読んでやっと世界観を把握できるようなヘビーな娯楽大作も好きですけれども、それは休みの取れた日にゆっくり時間を割いてとなると思います。日常系であれば、そんな学習時間なしにすぐに世界に入って楽しむことができますね。

 松坂 そういう意味では、異世界転生ものも日常だと思ってるんですよ。

 岡嶋 え~~~~~~~~。日常から逃避する系統の娯楽だと思ってました(笑)

 ぼく、生きるのが苦手なんですよ。人前に出るの緊張するし、怒られるの怖いし。だから学校にしろ会社にしろ、いつも「天変地異で休みにならないかな」と思ってました。よく「夏が好きで、暑ければ暑いほどいい」って言って笑われるんですけど、それも現実逃避の一つだと思ってます。「なんか、暑すぎるから、今日はちゃんと生きなくてもよさそう」って思えるじゃないですか。

 だから、異世界転生ものも、自分はその文脈で読んでいました。日常が嫌になっちゃったときに、ちょっと違う世界に浸るために。

 松坂 もちろん、それがベースにあるカテゴリーですけど、あまりにも人々に愛されて普及した結果、今を生きる人たちの基礎教養になったと思うんです。「ああ、こういう構造の話なんだな」って、初見で理解できるスキルをみんな持ってる。だからもう日常系と同じです。

 岡嶋 そういえば、ある作品でありましたね。異世界転生もののお約束で、転生時に女神のコンサルティングが入るんですけど。

 松坂 コンサルティング(笑)

 岡嶋 「なんで日本人ばかり転生させるんですか」って主人公が問うと、女神が答えるんです「日本人は慣れてるから、説明をはしょれる」って。

 松坂 まさに学習コストの小ささじゃないですか。岡嶋さんも異世界転生ものは読みますか? お好きですか?

 岡嶋 ちょっとした待ち時間なんかに消費するのは好きです。今は「異世界おじさん」ですかね。異世界部分も好きなんですけど、リアルに戻ってきたおじさんがいまいち生きにくそうにしているところとか。

 松坂 やっぱりすきま時間に消費してるんですね。いま時間の価値がとても高まっています。ゆっくり映画解説とか問題になってましたけど、あれも限られた可処分時間の中で、いかに映画という一定時間を占有されてしまうコンテンツを効率的に消費するかを突き詰めた形と言えます。

 岡嶋 そんな中で、ものづくりも変遷が求められていると思います。工業製品もそうですし、私のメインの商品である「学校の授業」なんかもそうです。コロナ禍で思ったんですけど、学生さんを100分連続で拘束する価値のある授業がやれているかどうかは問い直さないといけません。

 で、ガンダムなんかは、あんまりすきま消費のコンテンツじゃないと思うんです。TVシリーズも劇場版も、がっつりボリュームがありますし、テーマも重くて単位時間に詰め込まれている情報量が多いです。

 松坂 確かに本編は気軽に消費できるタイプのものではありませんが、それに合わせた派生コンテンツもありますよ。

 岡嶋 そうした状況下で、私は本編に輪をかけて気軽には読めない「ジオン軍の失敗」や「ジオン軍の遺産」を出してしまい…。

 松坂 あれはもともとそういう企画でしたからね。

 岡嶋 一年戦争がすでに歴史になった時期に、ちょっと“厨二病”が入った研究者が、散逸してしまった資料をもとに往事のモビルスーツに対して考察や妄想を巡らせたものをまとめたペーパー、というのがもともとの設定だったんです。

 この種のものって出オチみたいになりがちですけど、真面目に作らないと面白くないと思って、最初の稿は本当の論文調で書いたんです。一般的には悪文と呼ばれるやつですね。いくらそういう設定だからと言って、さすがにこれだと楽しめる人を限定し過ぎるだろうとかなりマイルドにしたのが今の稿です。

 松坂 確かに、知らずに読んだらびっくりするかもしれませんが、これを手に取る人はすでに覚悟のある人だと思いますよ(笑)

【対談者略歴】

 松坂 豊明(まつざか とよあき) 「電撃B-magazine」「アニマガ」(メディアワークス)、「メガミマガジン」(学研)、「娘タイプ」(KADOKAWA)などの雑誌編集者を経て、現部署に。アニメの関連書籍などを手掛ける。

 岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)など。

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