石破茂氏への期待と憎悪

 5度目の挑戦は見送られた。石破茂元幹事長は15日、派閥の会合で自らの心中を吐露し、自民党総裁選への立候補断念を表明した。12年総裁選や18年総裁選で石破氏は半数前後もの党員票を獲得したし、「次の首相」を問う世論調査でも必ず三本の指に入るが、勝算は高まらなかった。石破氏は河野太郎行革担当相を推すという。

 石破氏が総裁選に出馬しなかった最大の理由は、国民世論とは裏腹に、国会議員の支持が広がらなかったからにほかならない。6年前に派閥(水月会)を立ち上げたものの、もくろんだほど人が集まらなかっただけでなく、離脱者も出し、さらに今回の総裁選に際しても出馬に異議を唱える者がいたり、しゃあしゃあと他陣営に走る者がいたり、まさに散々であった。

 永田町では石破氏に対し、「話が難しい」「顔が怖い」「もったいぶったしゃべり方が気に入らない」「政権批判がひどすぎた」といった負の形容が使われてきた。「石破氏の近くにいれば、あとあと安倍晋三前首相や麻生太郎副総理兼財務相などからしっぺ返しを食らい、ポストがもらえなくなる」(国対関係者)ともささやかれた。

 批判のいくつかは正鵠(せいこく)を射ているかもしれない。だが、話が難しすぎれば、これほど国民的な人気は出ないはずである。ポストの問題も風評の面が強い。石破派の斎藤健氏は衆院当選4回で農水相に、山下貴司氏はわずか3回で法相に起用されているが、いずれも安倍政権のときであった。現在の田村憲久厚労相も、石破派の幹部である。

 「後ろから鉄砲を撃つ男」との表現も、しばしば石破氏に用いられる。現職の農水相でありながら麻生首相(当時)に退陣を迫ったり、安倍政権時代には事あるごとに官邸批判を繰り返したりしたからである。皮肉を込め、「石破氏こそ本当の野党」と平然と言ってのける閣僚経験者もいた。自民党の総務を務めていたときには、「石破氏は理論武装したクレーマー」(中堅議員)と眉をひそめる者もいた。

 政治改革の実現を目指すためであったとはいえ、自民党を離党し、新進党の結成に加わった“前科”をやゆする者もまだいる。中途入党組に対しては、自民党は実に寛大であるが、苦境に陥っているときに後足で砂をかけて出ていった“出戻り”に対しては厳しい。かつて河野洋平総裁(当時)が首相の座に就く直前に引きずり降ろされたのは、ロッキード事件のときに自民党を離れ、新自由クラブに参画した“前科”があるからだとの見方もある。

 一方、昨年の総裁選で「納得と共感」をキャッチフレーズにしたように、これまでの石破氏の熱い主張や訴えに少なからぬ国民は「そうだ」とうなずいてきた。たとえ永田町で後ろ指を指されることがあっても、国民の立場に立って“正言”を繰り広げることは、国会議員として極めて正しい。石破氏は若かりし頃に渡辺美智雄元副総理から教えられた「政治家は勇気と真心をもって国民に真実を語れ」の教訓を、今も頑なに守っている。

 選挙応援を頼まれれば、石破氏はその役割を全うしようとマニアックなまでに懸命になる。事前にその土地の歴史や話題、課題をつぶさに調べ、頭に入れておくだけでなく、雨の中、傘もささずに十数か所の街頭演説をこなしたり、移動の際もマイクを握り、声をからしながら支持を呼びかけたりする。そのような応援弁士は皆無に等しい。餅代や氷代といった経済的支援も他派閥に比べて遜色はない。

 にもかかわらず、なぜ永田町で人気が出ないのか。「酒の席でも政策論争を好む。相手を論破したら本当に嬉しそう」(若手議員)、「いつも『政治家は因果な商売、おれの同級生などはゴルフをしながら悠々自適な毎日、うらやましい』などと言う。それならばさっさと引退すればいい」(全国紙デスク)、「真顔で『総理は大変だ、なるものじゃない』と口にすると、たとえ本心でなくても周りは一気に白ける」(閣僚経験者)といった生の言葉に、その答えの一端があるかもしれない。

 今回の不出馬で石破氏の総理総裁の芽がなくなったと見る者は多い。だが、永田町で石破待望論が高まるのは自民党の支持率が2割台に突入してからであり、4割以上もある“今”ではない。衆院選に初出馬するとき、石破氏は田中角栄元首相から「握った手の数しか票は出ない」と教え込まれた。近寄りがたさを取り除き、永田町でもできるだけ手を握っていけば、もしかしたら遠くない将来、石破氏に幸運の女神がほほ笑むことがあるかもしれない。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。

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