【対談】プログラミング教育の可能性(後編)

 IT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)のエンジニアで、プログラミング教育を担当している末広章介氏と中央大学国際情報学部の岡嶋裕史教授が、プログラミング教育の現状や可能性について行った対談の後編。プログラミング教育の利点は、論理的思考を育成するだけでなく、図工や国語などさまざまな能力をスパイラルに伸ばすことができることだと強調した。

前編:https://b.kyodo.co.jp/business/2021-06-14_7524298/

「プログラミングという教科ができるわけではない」

 岡嶋 先月に引き続いて、DeNAの末広さんにお話を伺います。今回はDeNAの具体的な取り組みを伺えるとのことで、楽しみにしてきました。どんな事例をお話しいただけるのでしょうか?

 末広 まず、前提として、小学校での新学習指導要領ではプログラミングという教科ができるわけではなく、既存の教科の中で、プログラミング的思考を育成するために体験するという点をご理解いただきたいと思います。

 岡嶋 論理的思考や問題発見・解決能力をまとめて、プログラミング的思考と表現していますよね。それを具体的にソフトウエアへと実装していくプログラミングの技術は重要だけれども、あくまでも主眼はプログラミング的思考ということですね。

 末広 はい。そして、プログラミングの楽しさは「創る」ことにあります。

 岡嶋 それはとてもよく分かります。何かものを作るのは楽しいです。具体的に世界と関われるからだと思います。僕は子どものとき、図鑑で水車の仕組みを見て感動しました。それ自体もすごく面白い体験ですけれども、それを理屈だけで終わらせず、稚拙ながらも模倣して水車もどきを作ってみると、自分が何かを成せるという肯定感や世界の仕組みを理解した満足にまで昇華されたと思います。

 現代社会はなかなかそういう試行錯誤をさせてくれる余裕がありませんが、プログラミングであればそれは自由ですよね。そして出来上がったアプリケーションは社会に関わる力があります。

 末広 正にそのような体験や気づきを子どもたちにしてほしいのです。先生方とは、たくさんコミュニケーションを取り、アプリの操作性にご意見をいただいたり、指導案を作成したりしています。

著作権やプライバシーを考える機会にも

 岡嶋 素晴らしい試みですが、30人、40人のお子さんを抱える現実のクラス運営では、先生方のご負担はとても大きいのではないでしょうか。私は大学生を相手に20人のプログラミングのクラスを運営しています。小学校よりずっと条件がいいはずですが、それでもすべての学生に目を配って最適な指導を計画・実行していくのは大変です。

 末広 作品作りをしようと思うと、難しいプログラムもあるので先生方がハードルを感じる部分もありますが、小学校高学年では、公開されている作品をみて自分たちで調べて作品を作ることも十分可能なので、まずは取り組んでみてほしいですね。

 岡嶋 おーっ。高学年のお子さんは頼もしいですね。先ほどもおっしゃっておられたように、プログラミングの魅力って、自分のアイデアをすぐに形にできるところだと思うんです。機械製作などでは、なかなか1人ですぐにというわけにはいかないですよね。

 なのに、すでに完成したコードの穴埋め問題をさせるような授業では、その魅力を引き出せず、単にプログラミング嫌いのお子さんを育てるだけになるでしょう。でも、子どもたちの自由な発想を導くような授業は、本当に準備も運営も大変だと思います。ただでさえ業務量の多い小学校の先生に、どのようなサポートをされているのですか?

 末広 小学校の総合的な学習の時間で、子どもたちがアニメーションやゲームを作ることが増えています。例えば、町の名所を紹介するアニメーションやSDGs(持続可能な開発目標)を理解してもらうためのゲームを作った事例があるんです。

 子どもたちは、普段からゲームやアニメに慣れ親しんでいるため、自分がコンテンツを作ろうとなると、「いいもの」のイメージがつきやすいのです。

 しかしながら、いざ作ろうとすると能力とギャップがあることに気づきます。

末広章介氏

 岡嶋 その気づきは重要ですね。学習のモチベーションを生むものです。

 末広 はい。仕上がりイメージがあり、好きなゲームやアニメが題材なので、意欲も高く取り組め、ギャップを埋めることができます。この意欲向上だけでも、先生のサポートになると考えています。

 プログラミングに必要な能力は、プログラミング技術はもちろん、理数的な能力も重要です。また、イラストなどは図工、ストーリーは国語といったようにさまざまな能力が必要で、これらをスパイラルに伸ばしていけます。

 また、クラスで作品を作る良さもあります。個々の能力を出し合い、協力しながら制作ができるんです。

 岡嶋 力を合わせて、足りないところを補い合い、とがったところを伸ばし合う経験はいいですね。小さなことでもいいから、成功体験をたくさん積んでほしいです。

 末広 できた作品は公開したいと考えるケースが多く、著作権やプライバシーについても考える機会になります。

 岡嶋 プログラミング教育は多数ある学習ツールの一つで、その限界は承知しておかなければなりませんが、多くの子どもたちのポテンシャルを引き出していきたいですね。今後、何かご一緒できる事例があればうれしいです。この度はありがとうございました。

【対談者略歴】

 末広 章介(すえひろ のりゆき) 2012年にエンジニアとして中途でDeNAに入社し、2014年秋からプログラミング教育を担当。プログラミングゼミを開発するとともに学校で講師も務める。最近ではオンラインでもプログラミングを教える。二児の父。

 岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)など。

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