【対談】プログラミング教育の可能性(前編)

 IT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)のエンジニアで、プログラミング教育を担当している末広章介氏に、プログラミング教育の現状や可能性について、中央大学国際情報学部の岡嶋裕史教授が話を聞いた。

コミュニケーション能力を伸ばす?

 岡嶋 ぼくは、「プログラミング教育はコミュニケーション能力を育みます」ってふかすのが大好きなんです。

 末広 あんまり賛同は得られないんじゃないですか?

 岡嶋 そうなんですよ! 「一日中ディスプレイに向かってする作業のどこがコミュニケーション能力か!」って言われます。まあ、そういう反応が欲しくてふかすわけですが。でも、逆張りではなくて、本当にコミュニケーション能力が伸びると考えてるんです。コミュニケーション能力って、人前で立て板に水のように話せることだけではないですよね。例えば、口下手でも授業を聞いているときに、とてもいいタイミングでうなずいてくれる学生さんっているんです。「あー、理解してくれてるなあ。話しやすいなあ」って思います。

 授業ってコミュニケーションですから、疎通できていると思えばより話題が広がっていきます。

 こういった、人の話を聞き出す能力だったり、話している相手のバックグラウンドや文化などに思いをいたして誤解や誤読がないように先回りする能力だったりも、コミュニケーションの重要な要素です。グローバル化された社会や、多様化した社会を生きるためにはむしろこちらの方こそ大事かもしれません。

末広章介氏

 末広 それがプログラミング教育で育つと?

 岡嶋 コンピューターも、人にとっては異文化ですよね。数の数え方一つとっても、人間は自分の指の数にあわせて10進数を使ったり、平等に分けることに利用しやすい12進数や60進数を使ったりします。これは人の都合です。でも、コンピューターは2進数じゃないですか。

 末広 コンピューターにとってのネイティブな数の数え方は、2進数ですからね。

 岡嶋 そこで、「あっ、世の中には数の数え方一つとっても、違うやり方が当たり前だと思ってる相手がいるんだ」って体感してほしいんです。自分が常識や定理のように考えていることも、視点を変えればただの思い込みにすぎないかもしれません。

 そういう教育の重要性は認識されていて、座学ではみんなどこかで習っているんですけど、やはりピンときていない児童さんや生徒さんは多いんですよね。

「使えるか、創れるか」のステージに

 末広 プログラムを書いて、「どうしても動かない!」という体験をすれば、そこは変えざるを得ないと。

 岡嶋 コンピューターという異文化で、かつ融通のきかない、容赦ない石頭の機械を前にすると、嫌でも別の手を考えないといけません。そこがプログラミングの醍醐味だと考えています。そういう体験はフィールドワークなどでも得られますが、低コストで何回も繰り返せるのがプログラミングの強みだと思います。DeNAさんもプログラミング教育には大変に注力されていますが、どのようなビジョンを描いているのですか?

 末広 プログラミングが子どもたちの能力を拡大すると考えているからです。そこに積極的に貢献したいですね。先ほどのお話と重複しますが、プログラミングは、単にプログラミング技術の習得だけでなく、子どもたちの創造性やコミュニケーション能力を伸ばすと考えています。異文化交流的な側面もあるでしょうし、チームでプログラミングに取り組めば役割分担やマネジメントなど、子どもたち同士のコミュニケーションも活発になります。

 岡嶋 アプリケーションやサービスという「モノ」を作り出すのがいいですよね。今の子どもたちは自分たちが社会に関わることに対して不全感を抱いていますが、自らの手で作ったアプリでちょっと生活が楽しくなったり、便利になったりという経験を積み重ねて、「社会に関わることができる、社会を変えられる」と思ってほしいです。

 末広 主体的に何かの主題に関わっていくことと、自己肯定感は重要な要素です。既にコンピューターと私たちとの関わりは、「使えるか、使えないか」ではなく、「使えるか、創れるか」のステージに達していると思います。そういう世界をDeNAは目指したいし、貢献したい。

 岡嶋 なるほど。では、来月はその具体的な取り組みについて、お話を伺っていきたいと思います。

【対談者略歴】

 末広 章介(すえひろ のりゆき) 2012年にエンジニアとして中途でDeNAに入社し、2014年秋からプログラミング教育を担当。プログラミングゼミを開発するとともに学校で講師も務める。最近ではオンラインでもプログラミングを教える。二児の父。

 岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)など。

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