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「進化」する災害にプロアクティブな対応を 被害状況をAI活用で予測 NTT西日本の小林充佳社長

 東日本大震災の発生から3月で10年を迎えた。この間、地震、台風、豪雨、火山の噴火など全国各地に被害の爪痕を残している。2018年9月の北海道地震に伴い、国内初の全域停電(ブラックアウト)が起きるといった、想定していなかった悪影響が出るなど、自然災害は「進化」している。

 そのような多面性を持つ災害に対し、しかも、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)禍で、どのようにNTT西日本は対応しているのか。同社の小林充佳(こばやし・みつよし)社長は、AI(人工知能)など最先端技術を活用することで、被害状況を把握し、災害後の「迅速な復旧」に取り組むという「プロアクティブ」な対応を強調した。(インタビューは2021年3月10日、大阪市の本社ビルで実施)

インタビューに応じるNTT西日本の小林社長=3月10日、大阪市

 

早く復旧し、被害を最小化する

 

―東日本大震災が発生した、10年前の3月11日午後2時46分ごろは、どこで、何をされていたのか。

小林 当時、設備・サービスメンテナンスの責任者だった私は、このビル(本社)でミーティングの最中だった。ビルは震度4の揺れだったが、これぐらいの揺れだと、どこかで大きな地震があったのではないか、と感じた。テレビをつけると大きな津波の映像が流れ、ぼうぜんと見入っていた。

 ただちに、社内の災害対策本部を立ち上げた。責任者として地震発生以来、当時住んでいた寮にはほとんど帰れず、泊まり込みで対応した。NTT西日本の営業管内である西日本エリアでは、大きな影響は出ていなかったが、東日本エリアの復旧作業をどのように支援するのか、必要な機材をどのように運搬するかなどを連日、協議した。発生から約1カ月半、この間は会社で陣頭指揮をとっていた。

 

―この10年、いろいろな災害が全国各地で起きた。NTT西日本の営業管内でも、熊本地震、九州豪雨などが大きな被害をもたらした。情報通信技術(ICT)を使って社会のさまざまな課題の解決に貢献する企業として、災害に向き合う基本的な考え方は何か。

小林 東日本大震災を経験した者としても、自然の力は大きい、とあらためて感じる。この10年間だけを振り返ってみても、防災だけではなく「減災」という考え方が重要だと感じている。災害時に必要な車両、資材、機器なども充実させ、早く復旧して、被害を最小化することが重要だ。一方、災害発生「前」からの対応では、各地に点在する、通信設備の集積である通信ビル、それらをつなぐ通信ケーブルなどに被害がでないように、「堅牢(けんろう)で強靭(きょうじん)」な設備の構築に積極的に取り組んでいる。

 

―災害発生「前」の具体的な取り組みは。

小林 東日本大震災の経験を踏まえ、南海トラフ巨大地震に対応できるように、2012年から「防災3ヵ年計画」を策定した。具体的には、通信ビルへの水防扉設置や、非常用電源の長時間化による停電対策、通信ビル間をつなぐ中継区間の地中化、多ルート化による通信が途絶えない仕組み作りなどに取り組んだ。

 このほか、海側にあるケーブルについてはできる限り、陸側の方に移動させるなど津波対策も進めた。3カ年で100億円ぐらいを投じている。

 管内の西日本エリアは、地震より台風や豪雨が比較的多い。最近の天気予報は、精度が高く、過去の災害データをAIに学習させて、台風の被害状況を前もって予測ができるようになった。

 予測に基づいて、迅速に復旧しなければいけないだろう、という地域を予想しておき、台風が来る前に準備しておく。台風などの被害を受けるという前提で、あらかじめ復旧の人員を配置する態勢をとるためのシミュレーションをしておく。これを「プロアクティブ」な“り障予測”と呼んでいる。

 

―道路の寸断など、NTT西日本だけでは対処できない場合もある。

小林 最近は大雨災害などの復旧対応のため、自治体と協定を結んでいる。私たちの管内は、30府県をカバーしているが、その半分の15府県で締結済みだ。自治体と協定を結び、早期の通信障害に向けた、樹木や土砂などの除去に関する協力などで連携を強化する。

 災害発生で道路がふさがれることも多く、そのような場合、協定を結んだ自治体主導でやるべきこと、私たちがやるべきことを事前に確認してある。九州エリアは現時点では、沖縄県だけだが、自治体との情報共有は大切なので、今後増やしていく。(※その後、NTT西日本は宮崎県と3月24日に協定を締結)

 

―災害発生後、住民の避難所への対応も重要だ。

小林 自宅など住み慣れた場所を離れ、避難された住民の方々は、とても不安になっておられる。そのような中でも、電話などで肉声が聞けたり、安否確認ができたりすれば、少しは不安が和らぐのではないか。その際求められるものは、私たちのICTの力だ。

 想定されている避難所に「特設公衆電話」を計855の自治体、避難所の数でいうと2万カ所ぐらいに設置している、一部では電話だけではなく、パソコン、インターネットも使えるように、通信環境を整備している。

 この取り組みは、コネクターを対象避難所に設置しているので、いざというときは自治体側が電話機をつなげば、すぐに使えるようにしてある。もちろん無料だ。

 

初の新型コロナ禍での対応

 

―先ほど出た、被災の予測に基づき、NTT西日本として災害の初動を強化し、迅速な対応を行う「プロアクティブ」な対応をどのように評価しているのか。

小林 「プロアクティブ」な対応は、実効性が高いと評価している。昨年9月、九州を中心にした台風10号の被害があったが、事前に行ったAI予測の精度が高く、復旧のための要員、機材の配備が滞りなく実施できた。ただ、新型コロナ感染拡大という状況下での災害対応はこれまでに経験がなく、試行錯誤しながらやらざるを得なかった。

 

―新型コロナ禍での災害対応の苦労は。

小林 災害対応はいくつかの部分で成り立つ。一つは、災害現場の前線で修復する対応で、これは現地に行かなければできない。もう一つは、後方から現地の人を支援するという対応だ。新型コロナ感染拡大前は、後方支援の社員たちは、会議室に集まって議論してきたが、今は密になるのでできない。

 このため、後方支援はできるだけバーチャルで行うようにしている。情報共有のツールが充実したことで、人が密にならず分散して支援作戦を練り、意思決定ができるようになった。

 しかし、現地での対応はそうはいかない。前述の台風10号の時は、全員PCR検査を実施し、被災地のお客さまに安心していただけるよう対応した。新型コロナ禍での災害復旧については、さまざまな課題があることが分かり、今後の対応に生かしていきたい。

大阪・関西万博について「わくわくする、そんな世界がお見せできれば」と話す小林社長=3月10日、大阪市

テレワーク需要が追い風に

 

―2020年度決算の見通しについて。1999年のグループ再編以来、増収増益の見通しとなった。

小林 本年度の事業計画については、新型コロナ感染拡大前に策定したが、増収増益になるとの見通しを持っていた。現在の固定電話部門の業績は、1999年の半分ぐらいになった。それをサポートする形で、法人向けや、小中学生にパソコンを配備する「GIGAスクール構想」に関連したインターネット環境の整備など、多様なビジネス展開を進めてきた。これらの分野の成長を見て、増収の計画になるだろうと判断した。新型コロナ感染拡大に伴い、テレワークやコールセンターの需要も増えた。

 変わり種は、電子コミック事業の分野だ。電子コミックでトップクラスのグループ会社がある。新型コロナ禍での「巣ごもり需要」で収益が伸びた。

 

万博で、わくわくする「光」の世界を

 

―2025年の大阪・関西万博にどう取り組むのか。

小林 大阪・関西万博だが、関西の発展のために貢献したい。通信事業者としては、サイバーアタックへの備えを含めて、安定した通信を提供することができれば、と考えている。二つ目はショーケースだ。万博は「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマであり、NTTグループ全体として新しいサービスなどをぜひお見せしたい。

 三つ目はポスト万博だ。万博開催後には、会場の大阪市此花区の夢洲(ゆめしま)はスーパーシティとも呼ばれるようになっているだろう。夢洲で得られた、いろいろなデータを活用し、住んでいる人の利便性向上につながるようなトライをする。夢洲での取り組みが、大阪、関西、西日本地域での先進的な街づくりのお手本になるよう頑張りたい。

 

―いろいろなデータ、すなわちビッグデータを活用する技術は。

小林 NTTグループで開発している、新技術「IOWN(アイオン)」を活用したい。IOWNの「I」は革新を指す。

 これまでの電子回路は電気信号を用いている。しかし、今回の新技術では、光信号で処理するチップをパソコンなどの端末に組み込み、光ファイバー回線と組み合わせることで、ネットワーク全体で一貫して光を使って通信する仕組みとなる。

 消費電力を抑えながら大容量のデータを高速で処理できるため、車の自動運転などへの活用が見込まれる。技術仕様などを検討する協議体を来春にも設立し、関連企業の参加を募り、2030年ごろのサービス開始を目指す。この最先端技術で、スーパーシティやスマートシティの道筋を描くことができれば、と考えている。

 

―どんな形でお披露目するのか。

小林 今でも情報の伝達はほとんど光になっているが、集積回路(IC)の処理するCPU(中央処理装置)を光化にしようと考えている。今の電子のエレクトロニクスの世界を、フォトニクス(光工学)にする構想だ。光化することによって私たちの試算によると、消費電力は100分の1、伝送量が125倍、遅延が200分の1などと劇的に改善されるとのデータを得ている。

 日本だけでの技術開発となると、「ガラパゴス」化の恐れもあり、米半導体大手インテル、NVDIA(エヌビディアコーポレーション)など海外大手企業に参加してもらっている。フォトニクスを世界的に標準化させることで、スーパーシティ構想など多くのシーンで活用されるようにしたい。

 フォトニクスが10年先の技術とするならば、大阪・関西万博ではフォトニクスの世界をお見せすることができるのではないか。何をするかは、まだお伝えできないが、みなさんがわくわくする、そんな世界がお見せできれば、と思う。楽しみにしていただきたい。

 

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