「機動戦士ガンダム」で「ジオン軍」テーマに2冊出版 中央大教授の著者が誕生秘話を語る

 1979年に初めて登場し、40年以上の長きにわたり人気を保ち続けている「機動戦士ガンダム」。このほど、角川書店から「ジオン軍の失敗」と「ジオン軍の遺産」を出版した中央大学国際情報学部の岡嶋裕史教授に著書誕生の秘話を尋ねた。

 ―「ジオン軍の失敗」「ジオン軍の遺産」とジオン軍に焦点を当てています。簡単にそれぞれの著書の紹介をお願いします。

 岡嶋 「ジオン軍の失敗」は、0079年に勃発した一年戦争を、「ジオン軍の遺産」は公国軍が敗戦して以降の0096年までの期間を扱っています。どちらも主題は技術開発ですが、前者は総力戦時代の華々しい技術開発を、後者は戦争の様相がゲリラ戦や対テロ戦に移行して予算が削り取られる中での苦しい台所事情の技術開発を取り上げていますので、受ける印象はだいぶ異なったものになるかもしれません。また、「ジオン軍の失敗」は2009年に講談社から出版したものに加筆・修正を加えた書籍です。

 ―この本はどのようにして産まれたのですか?

 岡嶋 歴史の本が好きなんです。だから、自分の好きなガンダムの書籍にかかわる機会をいただいたときに、歴史書の体で書こうと思いました。実際、ガンダムはそれに耐えうるくらい情報量のある作品なので、本当に史書の編纂をしているみたいに楽しい作業でした。

 ―それにしては取っつきにくい部分があるのでは?

 岡嶋 ガンダムは、優秀なライターさんがひしめき合っているコンテンツです。普通に書いたのでは二番煎じ、三番煎じになって埋没してしまうことが確実でした。きら星のようなそういう方たちに比して自分の強みがあるとしたら、技術論の知識と論文調の文章を書いた経験だと考えたので、このような文体にしました。

 ―よく出版してもらえましたね?

 岡嶋 ほんとですよね(笑)。出版社さんの度量の広さに心から感謝しています。でも、これでもだいぶマイルドになってるんです。2009年版の初期ドラフトは、「MS-06R-2のジャイアントバズ実装に見る公国軍の兵器評価指標の瑕疵」といった仮タイトルが並んでいました。「ジオン軍の失敗」という書籍タイトル自体は早い段階で決めていたのですが、中身がこれでは誰にも読んでもらえなかったでしょうね。

 ―ダメじゃないですか(笑)

 岡嶋 2009年版のときは編集さんと、「売れなくてもいいからインパクトの大きいやつを作りましょう!」とか言っていた記憶があります。あっと言わせるというよりは、あきれられるようなものに仕上がりましたが、こういう作品は真面目に作り込まないと面白みすら出ないので、製作にはすごく時間をかけました。

 ―今回、執筆に際して、気をつけた点はありますか?

 岡嶋 たくさんの方が愛しているコンテンツですので、どんな機体にも、どんなパーツにも愛着を持っている人がいます。「ジオン軍の失敗」というテーマではあったのですが、一方的にディスるような書き方にならないように注意しました。

 また、現実と交差させないことを原則として決め、墨守しました。私自身があまり好きではないのです。例えば、ガンダムを楽しんでいるときに、「アナハイム・エレクトロニクスという企業は、現実の世界で言えばゼネラル・エレクトリックに相当するだろうか」などの文章に遭遇すると興がさめるんです。

 よくマスコミなどに、「オタクは現実と妄想の区別がつかない」と批評されますが、「いやむしろきっちり分けておきたいんだって!」と言いたいです。もちろん、互いをごっちゃに越境させて楽しんでいるコンテンツやユーザーさんもおられますが、この本では区分するスタイルをとりました。

 ―難しかった点は?

 岡嶋 このくらい普及したコンテンツですと、ユーザーさんの数だけ世界観があると思います。それらすべてに寄り添うことは、とても難しいですね。たとえば、正確な記述にするために、この世界では何が史実なのかといった事項は、版権元の担当者さんとやり取りしながら詰めています。

 でも、「この本で史実とされていることは、史実ではない。この著者の解釈は誤りである」とお叱りを受けたりします。そのくらいユーザーさんに愛されている偉大なコンテンツなんだと思います。

 ―逆に良かった点はありますか?

 岡嶋 楽しんでくださった方がいたことですね。こういう作品って、ユーザーさん頼みなんです。ユーザーさんとの信頼関係があって、初めて成立するコンテンツだと言ってもいいと思います。

 「めちゃくちゃマニアックなこと書きますけど、好きな人いますよね?」とか、「いちいち『ザクとは…』なんて書いてたら興ざめですよね。しょっぱなからMS-06R-1とMS-06R-1Aの違いが分かってることが前提の書き方しますけど、大丈夫ですよね」とか、ある意味でものすごくハードルの高い読書体験にしてしまっているんです。

 たとえ誰も読んでくれなくても、こういうの書いてみたいなと思って書かせていただいたのですが、「楽しみました」ってメッセージをいただいたりして、本当にうれしかったです。

 ―岡嶋先生はインターネットなどを中心とした情報通信技術がご専門だと思うのですが、今回の著書は、純粋に「趣味が高じて」ということなんでしょうか?

 岡嶋 はい、その通りです。その上で、この本を通して技術を面白いと思ってくれたり、技術について考えてくれる人が出てきたらいいなあ、とも思っていました。

 ―最後に、著書についてメッセージをお願いします。

 岡嶋 歴史書だったり、技術書だったりの皮をかぶせてありますが、楽しんでいただくためのコンテンツです。もしお手にとっていただく機会があれば、リラックスして読んでいただければ幸いです。

 その上で、もしも技術論に興味がわく方が出てきたら、著者として望外の僥倖(ぎょうこう)です。本日はありがとうございました。

 岡嶋 裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「デジタル/コミュニケーション」(中央大学出版部)、「思考からの逃走」(日本経済新聞社)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)など多数。

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