オンラインで開催された「めぐみフォーラム」初会合=7月31日

新型コロナ危機下の日本農業の課題 めぐみフォーラム初会合、共同通信アグリラボ

 共同通信アグリラボは、一般社団法人共同通信社に加盟する新聞社の記者らを対象に、7月31日に研究会「めぐみフォーラム」の初会合をオンラインで開いた。株式会社共同通信社の佐藤雄二郎社長がアグリラボの設立の趣旨を説明し、石井勇人所長が「新型コロナ危機と日本農業の課題」について講演した。講演の要旨は以下の通り。

講演する石井所長

▽あぶり出された生産現場の弱点

 新型コロナウイルスの感染拡大が農業生産に及ぼす影響は、大きくばらつき「まだら模様」だ。社会活動の制限で高級品の需要が蒸発し、和牛やメロンなどの高級果実、花卉(き)が直撃を受けた。和牛は在庫が積み上がり、一部の産地では学校給食に提供された。

 外食など業務用の需要が急激に縮小、学校給食の停止で牛乳の出荷先がなくなった。

 一方、家庭内での消費が増え、普及品の価格は上昇傾向だ。同じ肉でも、豚・鶏は値上がりしている。全体の傾向として経営規模の拡大による効率化(野菜など)、高級化による収益拡大(果物や高級魚の養殖など)、輸出促進(和牛や果物など)に取り組む経営が打撃を受けている。いずれも安倍晋三政権が推進してきた政策であり、それを誠実に実行してきた農家がもっとも苦しんでいるという皮肉な現象だ。

 特に経営規模の拡大に伴い、外国からの労働力への依存を強めた経営が危うくなった。約2000人の外国人技能実習生が入国できず、政府は急きょ滞日条件を緩和し異業種の実習生を振り替えるなどして急場をしのいだ。

 新型コロナ危機は、「高付加価値戦略」と「労働力の海外依存」のぜい弱さをあぶり出した。「儲かる農業」「効率化」を追求してきた安倍政権の農業政策を検証する必要があるということだ。

▽パニック回避に成功した食料供給

  一方、流通面に着目すると、全体として食料の安定供給は確保できている。3月下旬に小池百合子東京都知事が「感染爆発の恐れ」「重大局面」と発言したのを受けて、パスタ類や冷凍食品が一部の店頭で品切れとなるなど、パニック寸前の時期もあったが、物流は短期間で回復し風評の抑制にも成功した。

 最近は野菜の値上がりが目立つが、長雨などの天候不順が主因だ。ロシアなどで自国産農産物を一時的に禁輸する動きがあったほか、フィリピンで港湾機能が停止してバナナの調達が不安定になり、米国の食肉加工施設で集団感染が発生して食肉の出荷が停止するなど、一部で物流の停滞もあるが、日本の主要取引先である北米などからの基幹的穀物の供給は安定している。

 穀物の国際相場も世界的な需要の減退で下落基調だ。在庫は潤沢で今年の作況も順調だ。米国産トウモロコシは4割近くがエタノール生産向けで、原油価格の暴落に引きずられている形だ。

▽不測時には物流が最優先

 食料自給率の低さを懸念し国内生産の強化が必要とする論調が台頭しているが、食料安全保障上、物流の確保が極めて重要だ。食料の安定供給については「平時」と「不測時」を明確に区別する必要がある。

 小麦など穀物の国際相場が高騰しても、日本の外貨準備は十分にあり、食料調達で資金面の問題はない。飢餓は自給率が低く外貨に乏しい国から順を追うようにして現実になる。物流が機能している限り、日本では食料危機は起きにくい。貧者への飢餓のしわ寄せは、それ自体が「危機」そのものであり看過できない。

 この点で、日本は「前科一犯」だ。1993年に大冷害でお米が不作となり、タイから緊急輸入した。その結果、お米の国際相場が急騰してタイの食料価格を押し上げ、貧しい人たちを直撃した。しかもタイ米をまずいといって大半を廃棄した。このような「暴挙」を繰り返さないためにも、平時から国内生産の強化や備蓄水準の引き上げが重要だ。

▽後退する貿易自由化と構造改革

 リーマン・ショック後、欧米を中心に行きすぎたグローバル化への反動が本格化していた。日本は国際潮流に逆行する形で環太平洋連携協定(TPP)などの推進に前のめりになっていた。コロナ危機によって日本でもグローバル化への疑念は強まるだろう。

 今のところ金融市場や物流面での協調は維持されているが、先行きは極めて不透明だ。米国と中国の対立が先鋭化しており、自由貿易体制の基盤が揺らぎ、保護主義的な傾向が強まるという論調が多い。

 コロナ危機を受けて、日本でも貿易・投資の自由化路線の退潮は確実になるだろう。それと表裏一体の関係にある構造改革・規制緩和や、農業分野の集約化・規模拡大の政策も停滞するだろう。農業政策の新たな中期指針である「食料・農業・農村基本計画」も、中小規模の農家や農村政策に配慮をした印象を受ける。

 ただ、注意深く読めば「コメ離れ」「畜産重視」「輸出促進」などの方針は強化されており、構造改革路線の反動による単純な「先祖返り」ではないことに気が付く。コロナ危機が収束すれば再び揺れ戻しがあり、長期的にはグローバル化の流れは止まらないとみている。いずれ「農業の成長産業化」を目指す構造改革路線も復活するだろう。

※共同通信アグリラボのWEBサイト「めぐみ」とは

 https://agrilab.kyodo.co.jp/

 WEBサイト「めぐみ」は、株式会社共同通信社の社内研究組織である「共同通信アグリラボ」が運営。「食・農・地域創生」の3つのテーマについて、最新の情報が読めるニュース系サイトを目指しています。

 ニュースは「つくる」「食べる」「くらす」「グローバル」の4つのカテゴリーに分類し、農業を中心とした第一次産業の状況や政策、流通や食品、地域づくり、輸出入や国際情勢について、アグリラボのほか共同通信グループ各社が取材した結果も日々、お伝えしていきます。

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