【コラム】学生さんは遠隔講義をどう感じていたのか

 今年は遠隔講義の年だった。

 50年後に教科書検定制度がまだあるかどうかは分からないけど、歴史の教科書に「日本の学校教育システムにおける情報化元年」などと書かれるだろう。

 そう、私たちはやっと情報化を始めたのだ。

 私はインターネットの話をする講義などを持たせてもらっているので、DX(デジタルトランスフォーメーション)とかPPAP(Passwordつきzip暗号化ファイルを送ります-Passwordを送ります-Aん号化-Protocolの略。セキュリティー的に意味はないけど、とりあえず暗号化して安心感だけ漂わせました、という手順のこと。転じて役に立たない仕事ごっこの意味にも使われる)のことをしゃべったり書いたりするけれど、一番怪しいのは足下なのである。

 学校はかたくなに情報化や効率化を拒んできた。さすがに会議の開催通知はメールで来るようになったし、今年は情報化をしたかった人たちにとってはいいチャンスだったので、グループウエアなども使われた。長足の進歩である。

 でも、構成年齢の高そうな会議だと、まだ郵便で通知が来たりする。そういう会議ほど、集まってやることは顔合わせだけだ。生存確認の意味があるのかもしれない。Excelを方眼紙のアプリだと信じて疑わない人たちもまだまだ気炎を上げている。

 小中学校でも、情報化の先端事例がよく紹介されているけれども、まだ紙による情報の配布にこだわっているところはたくさんある。フェース・トゥ・フェースのコミュニケーションが正義だと固執するあまり、メール1本で済みそうな内容の保護者会をコロナ禍の最中に強行した学校もある。

 それが全て悪いとは思わないけれども、「内容による適切なコミュニケーション手法の取捨選択」はできていない。これは、学校が児童・生徒に教える事項の一つだが、そもそも学校運営がそのようになされていないのだ。

 だから、イノベーションとか第4次産業革命とか唾を飛ばしてみても、私たちの大多数が手を付けるのは情報化や、それに伴って仕事の進め方を変えること、になる。四半世紀以上昔に、大学で教わったことがまだ未着手だったのだ。

 そんな背景がありつつも、学生さんたちはよく戦ったと思う。

 大学の執行部は必ずしも情報技術に精通していないので、新学期が始まった当初は朝令暮改が当たり前だった。

 似たような(でも微妙に違う情報が記載されている)メッセージが、メールでも郵便でもLINEでもLMS(学習管理システム)でもウェブからすら届くのは苦痛でしかなかったろう。

 オンライン会議システムを使った講義をするよとアナウンスされて、慣れない環境を整えたらアクセス集中でつながらず、急に紙の本を使った自習へとコークスクリューのように投げ落とされる事例すらあった。

 また、オンラインの授業は教員側に進捗管理の不安があり、つい課題だの宿題だのを出し過ぎる傾向がある。その教員にとっては「つい」の範囲なのだが、各先生の1週間分のついが積み重なると殺人的な量になる。

 小・中・高でも見られたが、特に大学の場合は教員間の横のつながりが乏しいので(個人事業主の集合体だと考えるとよいかもしれない)、なかなか調整がきかない。

 私は一応ネットワーク屋だし、初心者向け情報教育なども扱っているので、ネットがパンクするんだろうなあとか、宿題が出すぎるんだろうなあとか思っていた(力がないので思っていただけで、対策を講じたりはできなかったけれど)。

 だから、最初は自習から始めて、だんだん資料配信型、動画配信型、双方向講義へと発展させていった。宿題も極力出さないようにした。近年の学生さんは真面目な子が多いので、かえって批判されることも覚悟していたのだけれど、趣旨を理解してくれて、怠けるでもなく、不安におびえるでもなく、よく付き合ってくれた。大教室の授業を全てオンラインでやって、離脱者がゼロに等しかったのは奇跡的である。ひとえに学生さんの努力のたまものだ。

 研究に使いたい思惑もあって、「VR(仮想現実)空間で授業をやってみようよ!」などと無茶ぶりしたこともあるのだが、できるだけの準備をして参加してくれた。学年にかかわらず、総じて学生さんのモチベーションはとても高かった。

 副次的な効果もあった。講義を行う側としてはできるだけ質問をしてほしいのだけれど、大勢の前でそうそう質問できるものでもない。私も学生のころはちっともしなかった。それが、LMSを使うようになって劇的に増えた。答える方はしんどかったけど(立ち話的に質問される方がずっと楽である)、引っ込み思案な子にはいい環境だったのだと思う。コロナ禍が明けても、ずっとオンラインの講義がよいとアンケートに回答する学生も多かった。

 総じて、人間関係が未構築な状態にある低年次生は対面講義の再開を望み、高年次生はオンライン講義の継続を希望する傾向にあった。下半期も多くの大学がオンラインで講義を実施すると考えられる。どのような体制が彼らにとって望ましいのか、引き続き試行錯誤を重ねたい。

【筆者略歴】

 岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ブロックチェーン」、「5G」(講談社)、「いまさら聞けないITの常識」(日本経済新聞出版社)など。

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