大自然に加え、オーストラリアの魅力の一つが「食」だ。「オーストラリア+食=オージービーフ」というイメージしか持っていない人が意外と多いのではないだろうか。それもそのはず「オーストラリア料理」という定義は難しい。広大な大陸に動物の肉、海産物、果物など豊富な食材があり、それらの素材を使ったものがオーストラリア料理といえる。


イギリスの影響を受けているため、フィッシュアンドチップス、ミートパイといった料理を出す店が多い。肉はビーフやチキン、ラムのほか、カンガルーなど種類も豊富。西オーストラリア州は、それにロブスターなどシーフードが加わるのが特徴だ。

パース在住15年の日本人女性アコ・サベージさんは「オーストラリアは新しい移民で成り立つ国なので、アジアからの移住者も多く、さまざまなアジア料理が気軽にレストランで楽しめる」と話していた。
▽ワイン王国
オーストラリアは、温暖な気候を生かしたワイン作りも盛んだ。特に西オーストラリア州は地中海性気候で日照時間が長く、フルーティーなワインができると評判だ。ブティックワイナリーと呼ばれる小さなワイナリーが多く、パース市内から30分で行けるスワンバレーは、南部のマーガレットリバーと並ぶ西オーストラリア州最大級のワイン醸造地帯だ。


「オリーブ・ファーム・ワイン」は、西オーストラリア州で最古のワイナリー。広大な土地に垣根仕立てのブドウの木が並び、35種類以上のワインをテイスティングできる。隣接地の「チーズ・バレル」では地元産を中心に各種チーズがそろっており、のどかな景色を眺めながらワインとのマッチングを楽しむことができる。



「マンドゥーン・エステート」は宿泊施設やレストラン、ワイナリー、ブルワリー(ビール醸造)がそろう一大スポットだ。訪れたのが日曜日とあってか、友人たちや家族連れなど大勢のオージー(オーストラリア人)たちがダイニングや芝生の上でワインや料理を楽しんでいた。

▽クルーズ船でロブスター



ロブスターなどシーフードを味わうならロットネスト島のクルーズ船が面白い。「ワイルド・シーフード・エクスペリエンス」と呼ばれるツアーで、沖合の仕掛けに行き、その場で水揚げしたロブスターを船上で調理してくれる。波が穏やかなら、ロットネスト島の白砂ビーチを眺めながら、ワインやビールとともに味わうシーフードは格別だ。


▽歴史ある港町

ロットネスト島への出港地となるフリマントルは、貿易港でもあるが、シーフードなど食の街でもある。南極観測船の物資積み込み基地としても知られ、訪れた数日前までは昭和基地に向かう「しらせ」が停泊していたという。

フリマントルは、パースから南西に約19キロ、東京から横浜より近い。19世紀前半にイギリスからの入植者によって開拓された港町で、市庁舎より高い建物がないため、歴史を感じる映画のセットのような建物にカフェやレストランなど個性的な店が軒を連ねている。

▽刑務所が世界遺産

異色なのが旧フリマントル刑務所だ。開拓の労働者としてイギリスから流刑された囚人たちがここに収容され、その後も刑務所として1991年まで使用されていた。お城のような門を入ると歴史を感じさせる刑務所が見える。囚人たちが自ら入る刑務所を造った建物が、西オーストラリア州で唯一の世界文化遺産に登録されている。

▽フリマントル・ドクター


フリマントルでは、インド洋の夕日を見ながらシーフード料理を堪能できるレストランがお勧めだ。フリマントルの夏は、気温40度に達することもあるが、夕刻になると海からの心地よい風が癒やしてくれる。「フリマントル・ドクター」と言われる風だ。そんな風を感じながら、海を望むレストランでオージーたちと一緒に味わうディナーは、旅行者、生活者双方に至福の時を与えてくれる。

▽パースにうどん店
日本食が恋しくなったらパースには日本食レストランも多いので安心だ。すし店やラーメン屋が多いが、パースの市街地にうどん店を立ち上げたのが岡山県倉敷市出身の平松大助さん(42)だ。平松さんは海外で飲食店をやりたいと思っていてシドニーやメルボルンなど各地を回っていて、パースに来た際に「ここだ」と思ったという。「街として大きくも小さくもない。何より住みやすい」。ラーメンは知られているが、ぶっかけうどん発祥と言われる倉敷のうどんをオーストラリアの人たちに食べてもらいたい、とパースのすし店で働いていたが2018年に独立し、うどん店「一二三(ひふみ)屋」を開店した。

日本人ばかりではなく、地元のオージーたちも常連だ。平松さんは現地の学校に通う中学生、小学生の子ども3人も一緒に家族5人でパースに住む。夜にはうどん店が居酒屋になる。「日本の居酒屋文化をパースの人たちに知ってもらいたい」と意気込んでいる。
▽暮らしと旅が一体
現地で会った誰しもが「パースは暮らしやすい街」と言う。それに加え、近郊に観光スポットも多く飽きさせない。パースはまさに「暮らすように旅する」「旅するように暮らす」街なのだ。
