【会社法入門講座⑦】社長もつらいよ

 プロローグ……社長の交代が注目された1年だった

 年末に近づき、めっきり寒くなりました。

 前回は、日産自動車のゴーン前会長の突然の逮捕に揺れた同社の経営陣の交代をめぐる事件を取り上げ、会社法の観点から、もしも、日産が6月の定時株主総会で指名委員会等設置会社に移行していなかったならば、社外取締役が過半数を占めていなかったならば、西川広人社長の突然の辞任や、内田誠新社長が誕生する事態にはならなかったのではないかということをご説明しました。

 しかも、今年は、他の会社でも社長の交代をめぐって、社内対立が鮮明になり、株主を巻き込んだ攻防になって、社会的な注目を集めた事件も少なくありません。LIXIL(リクシル)グループでは、経営方針の争いから、株主総会で取締役の選任をめぐる会社提案と株主提案とが激突し、僅差で瀬戸欣哉前社長が返り咲きました。

 また、アスクルでも、大株主であるヤフーとの対立から、岩田彰一郎社長が退陣に追い込まれました。

 そこで、今回は、年の最後に、この2つの社長交代劇で問題となった会社法のメカニズムについてご説明したいと思います。

LIXILグループでは内部抗争が勃発していた

 まず、今年6月25日、住宅サッシなどの建材や台所・浴室等の衛生機器の大手であるLIXILグループの定時株主総会において、昨年11月にCEO(最高経営責任者)を解任された瀬戸前社長と、旧トステムの創業家でもある潮田洋一郎会長を中心とする経営陣(山梨広一社長側)との路線の対立が鮮明になり、定時株主総会で双方が取締役選任に関する議案を提出し、経営権を争うという事件が起きました。

 ご承知の方も多いと思いますが、LIXILグループは、平成23年(2011年)に国内の主要な建材・住宅設備機器メーカー5社(トステム、INAX、新日軽、サンウェーブ、東洋エクステリア)が経営を統合して発足したグループ管理会社であり、トステム出身の潮田会長が大きな力を振るっていたのですが、統合後それほど時間も経っていないので、グループ管理会社として一枚岩ではなく、内部登用ではないプロの経営者である瀬戸前社長などとの対立が激しくなっていたのです。

LIXILグループは指名委員会等設置会社である

 このLIXILグループは、前回ご説明した日産と同じく指名委員会等設置会社であり、取締役会メンバーの過半数は社外取締役が占めていますが(400条3項)、日産とは事情が異なります。

 日産では、ゴーン前会長のときから取締役に外国人が多くなり、現在でも11人の取締役のうち5人が外国人で、中心メンバーはルノーの関係者等であることが大きく影響しました。これに対して、LIXILグループでは、14人の取締役のうち外国人は1人だけで、ルノーのような問題はありません。

 もっとも、LIXILグループも指名委員会等設置会社ですから、前回触れたように、取締役には具体的な業務執行権限がありません(415条)。業務を執行できませんから、取締役が会社を代表することはなく、代表取締役という地位も存在しません。

 取締役会は、業務執行を行う「執行役」を選任した上、代表執行役を選定し(402条1項,2項)、代表執行役を中心とする経営陣に業務執行を任せて、その業務執行の監視・監督に専念します。会社内部の職制上のトップである「社長」は、執行役の中から選定されます。LIXILグループの定款では、「取締役会は、必要に応じ、その決議によって執行役会長、執行役社長各1名、執行役副社長、執行役専務を選定することができる」と定めています。

執行役は取締役を兼ねることができる

 ただ、会社の大きな経営方針を決定するのは取締役会ですから(416条1項)、業務執行の際に会社を代表する代表執行役は、取締役会のメンバーであることが合理的です。

 しかし、指名委員会等設置会社では、取締役は業務執行を禁止されていますから、取締役が執行役を兼ねるのは適切ではありません。そこで、会社法では、執行役が取締役を兼ねることを認めることにしています(402条6項)。どちらでも実際上の違いはないのですが、理屈にこだわったつくりになっているのです。

 このような前提で、指名委員会等設置会社では、通常、執行役のトップである代表執行役社長が、株主総会での選任を経て、取締役を兼ねています。もちろん、取締役という地位は、会社の最高意思決定機関である株主総会による選任ですから、取締役会で選定される代表執行役という地位よりも上位にあると考えられます。

 したがって、指名委員会等設置会社における社長の肩書は、「取締役」「代表執行役」「社長」という順番で記載し、「取締役代表執行役社長」とするのが普通です。

 なお、LIXILグループでは、代表執行役社長だけではなく代表執行役会長も存在しますので、CEO(最高経営責任者)という肩書がある方が本当の会社のトップであることを示しています。

瀬戸前社長の解任と抗争の勃発

 さて、LIXILグループの内部抗争は、昨年10月に表面化しました。当時、「取締役代表執行役社長CEO」として経営陣のトップであった瀬戸社長が、取締役会においてCEOを解職され、経営トップの座を失ったのです。

 もっとも、瀬戸社長は、取締役代表執行役社長CEOでした。厳密には、「取締役」「執行役」「代表執行役」「社長」「CEO」という5つの地位を有していたのです。したがって、CEOの地位を失っても、まだ「取締役代表執行役社長」ではあったのです。

 ところが、今年3月には「代表執行役社長」も解職され(厳密には、「執行役」「代表執行役」「社長」の3つの地位を失い)、ただの取締役に降格されたのです。任期の途中で取締役の地位を失わせるには、日産の西川前社長の場合と同様に、株主総会の決議が必要ですから、取締役の地位にはとどまっていました。

 一方で、旧トステムの創業家で、経営陣を実質的に決定する権限を有する指名委員会(404条1項)の代表であった潮田会長(取締役代表執行役会長)が、自らCEOに就任しました。しかし、手続の不透明さなどから十分な支持を得られず、結局、潮田会長はCEOを辞任し、No.2のCOO(Chief Operating Officer /最高執行責任者)であった山梨取締役を代表執行役社長に据えました。しかし、そのような見え見えの対応では大方の支持を得ることは困難でした。

クーデターの勝利

 他方、瀬戸前社長も黙ってはいません。株主や取締役に対して潮田体制の交代を訴え、株主総会の議案として、経営陣(潮田前会長側)の提案する取締役候補の選任に反対しつつ、瀬戸前社長及び瀬戸前社長を支持する者合計8人を取締役候補とする株主提案を行うことを発表しました。クーデターが起きたのです。

 これに対し、潮田会長らの会社側は、何と、潮田会長自身と山梨社長と取締役会議長の3人を取締役候補からはずし、いわば捨て身の戦法で、瀬戸前社長に反対する8人の取締役の再任だけを提案した上、さらに株主提案に含まれていた社外取締役候補のうち2人(鬼丸かおる前最高裁判事と鈴木輝夫公認会計士)を、会社提案の社外取締役候補にも指名するという奇策に打って出ました。しかし、このような会社提案は、いかにも小細工を弄したことが見え見えでした。

 大荒れの株主総会となりましたが、結局、会社提案の8人の取締役候補者のうち2人(福原賢一ベネッセHD特別顧問と竹内洋元財務省関税局長)が再任されませんでした(ベネッセの福原氏はカリスマ経営者のひとりとして有名ですが、とんだ貧乏くじを引いてしまいました)。これに対し、株主(瀬戸前社長側)提案の取締役候補8人は全員選任されました。その結果、取締役14人(社外9人、内部関係者5人)のうち8人(社外4人、内部関係者4人)が瀬戸前社長を支持し、その後に開かれた取締役会では瀬戸前社長が代表執行役/社長/CEOに選定され、LIXILグループの「取締役代表執行役社長CEO」に返り咲いたのです。

ノーサイドでの再出発をアピール

 もっとも、この取締役選任における株主総会での賛成率を見てみると、会社側と株主側が揃って候補とした鬼丸氏と鈴木氏の二人は94.4%を超える賛成率で選任されましたが、瀬戸前社長の賛成率はわずか53.71%でしたし、選任された14人の取締役のうち11人は、その賛成率が50%台ギリギリで、株主の十分な信任を得られませんでした。多くの株主が経営権をめぐる泥試合に「No!」を突きつけたのです。ほとんどの取締役の選任賛成率が55%以下という極めて異例な状況になったのですから、新経営陣は、ラグビーのようにノーサイドでこれまでの争いを棚上げし、グループ全体で一致団結した経営体制を構築して、円満な再出発を切った姿を世間に広く見せる必要に迫られました。

 そこで、瀬戸新社長は、LIXILグループの取締役会議長には、会社提案の松﨑正年取締役(社外取締役)を充て、また、グループの中核会社であるLIXILの代表取締役社長には、同じく会社提案の大坪一郎取締役(内部)とし、併せて、グループの「取締役代表執行役副社長」に就任させるなどして、全社一丸となった新体制の発足をアピールしたのです。株主総会前日の6月25日の株価は1478円でしたが、翌26日の株価は1714円と1.16倍に上昇し、一応、アピールが功を奏したと評価されています。

アスクル事件の経過

 次に、アスクルの事件をみてみましょう。

 アスクルは、注文すれば「明日くる」をうたい文句に発展してきた業務用事務用品などの通販事業を行っている会社ですが、発行済株式の約45.1%を保有しているヤフーなどと、経営陣である岩田彰一郎社長側との対立により、今年8月2日に開かれた定時株主総会において、会社(岩田社長側)が提案した取締役候補のうち、岩田社長と3人の社外取締役候補が取締役に選任されませんでした。岩田社長は取締役としての地位を失い、その結果、代表取締役と社長の地位も失いました。

アスクルは監査役会設置会社だった

 日本の多くの会社は、日産やLIXILグループのような指名委員会等設置会社ではありません。東京証券取引所の上場企業約3700社のうち指名委員会等設置会社は約80社(2%)にすぎません。アスクルも含めて、「監査役会設置会社」(2条10号)という会社形態が約2600社(70%)と多数であり、会社の最高意思決定機関である株主総会が取締役を選任し、取締役・取締役会が経営方針を決定して実行し、監査役・監査役会がチェックするという構造になっています。

 もっとも、最近では、上場会社を中心に、「監査等委員会設置会社」(2条11号の2)という形態も約1000社(27%)に増えています。紛らわしいので注意が必要ですが、監査等委員会設置会社は、取締役・取締役会の業務執行を、監査役・監査役会がチェックするのではなく、「監査等委員会」がチェックします。監査等委員会設置会社では、監査役・監査役会は存在しません。取締役が、業務執行を担当する取締役と、監査等を担当する監査等委員である取締役との二手に分かれて別々に選任され(329条2項)、監査等委員である取締役として選任された取締役が監査等委員会のメンバーになります(399条の2第1項)。

監査役会設置会社のトップは代表取締役社長である

 もっとも、監査役会設置会社でも、監査等委員会設置会社でも、指名委員会等設置会社でなければ、株主総会で選任されたが取締役で取締役会を構成して(329条1項,362条1項)、その取締役会の決議によって取締役の中から代表取締役が選定されるという仕組みは同じです(同条2項)。

 そして、選定された代表取締役が、会社を代表する権限を有し、業務執行の責任者とされているのです(349条1項ただし書き、同条4項、363条1項1号)。法的に会社を代表するのは「代表取締役」であって、「社長」ではありません。

 実際には、多くの会社で経営のトップを「社長」と呼び、その肩書は「代表取締役社長」とするのが一般的ですが、これは、会社内部の規範である定款で、職制上のトップを「社長」と呼ぶ前提で、「社長には代表取締役が就任する」とか、「取締役会は取締役の中から社長を選定する」と定めているからです。

 岩田社長の肩書も「代表取締役社長CEO」でした。そして、代表取締役であるためには取締役という地位にあることが必要ですから、取締役としての地位を失えば、当然に代表取締役や社長という地位も失うのです。

岩田社長の任期はいつまでだったのか?

 それでは、岩田社長の任期はいつまでだったのでしょうか。社長は代表取締役であり、代表取締役は取締役であることが必要ですから、この問題は、取締役に選任されると、いつまで取締役の地位にあるのか、という問題と同じです。

 会社法では、取締役の任期は、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社でなければ、原則として取締役に選任された後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結時まで(簡単にいえば、選任から2年後の定時株主総会の終結時まで)とされています(332条1項,3項,6項)。

 ただし、この任期は、定款で短縮することができます。アスクルは監査役会設置会社であり、取締役の任期は、原則として選任から2年後の定時株主総会の終結時までのはずでしたが、定款で、1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(簡単にいえば、選任から1年後の定時株主総会の終結時まで)と定めているのです。

 岩田社長は、1年前の定時株主総会で取締役に選任された上、取締役会の決議で代表取締役に選定されて社長の座に就いていましたから、その任期は今年8月2日の定時株主総会の終結まででした。岩田社長が代表取締役社長を続けるためには、株主総会で取締役に再任されることが必要不可欠だったのです。

岩田社長は株主総会で取締役に再任されなかった

 ところが、岩田社長は、通販のLOHACO事業の譲渡をめぐって、株式の約45.1%を保有し筆頭株主であるヤフーと対立し、同じく約11.6%を保有するプラスの支持も失って、8月2日の定時株主総会で取締役に再任されませんでした。

 その結果、岩田社長は、会社法と定款の定めによって、この株主総会の終結と同時に取締役としての任期が終了し、取締役の地位を失い、代表取締役、社長、CEOという地位も自動的に失ったのです。

 岩田社長は、アスクルの事業を拡大するため、ソフトバンクの子会社であるヤフーの資本参加を受け入れたのですが、結果的にヤフーに追い出されるという皮肉な結果になってしまいました。

 ヤフーの持株比率は45.1%にもなっていたのですから、会社法のメカニズムからみれば、実質的にはヤフーの子会社になっていたのです。岩田社長は、そのことを十分に認識できていたのかどうか、疑問が残ります。いずれにしても、安易に他社の資本参加を求めることへの警鐘とみるべきでしょう。

岩田社長に対抗策はなかったのか?

 やや余談になりますが、岩田社長に対抗策はなかったのでしょうか。

 結果論ではあるのですが、アスクルは指名委員会等設置会社ではなく、社外取締役が取締役会の多数を占めているわけでもありません。

 岩田社長は取締役会では多数の支持を得ていたようですから、株主総会の前にはLOHACO事業の譲渡を求めるヤフーの要求を一旦は前向きに検討する姿勢を示してヤフーとの対立を避け、取締役に再任され、代表取締役の地位を固めてから、支持者が多数を占める取締役会で改めて事業譲渡について議論し、取締役会の決議として直ちにはLOHACO事業を譲渡することはできないとした上、ヤフーと交渉を継続していくこともひとつの選択肢だったように思います。

 もちろん、譲渡を拒否すればヤフーは態度を硬化させるでしょうから、その対策も考えておかなければなりません。新株を発行してヤフーの持株比率を下げるのが一番です。

 幸いにもアスクルのような取締役会設置会社では、新株発行は取締役会だけで決定することができ、株主総会の決議は必要ではありません(199条2項,201条1項)。業務資金獲得のためであれば、不公正発行(210条)として差し止められることもないでしょう。例えば、LOHACO事業発展のために物流施設などを拡充・整備する資金を集めるために新株を発行して、結果的にヤフーの持株比率を下げることも可能だったのではないでしょうか。

 しかし、岩田社長は、そのような対策はとらずに真っ向勝負を挑んで敗れてしまいました。散り際がよかったともいえますが、今回の顛末は、岩田社長側にヤフーと戦うための戦術を考えて提案する参謀役が不在であったことをうかがわせます。このようなことは、一般的には、社長がワンマンになっていて、周囲にはイエスマンしかいないときに起こりやすいものです。そう考えると、ヤフー問題の有無にかかわらず、岩田社長は交代した方がよい時期だったのかもしれません。

エピローグ……雨降って地固まることを!

 このように、LIXILグループでもアスクルでも、経営方針が対立し、誰に会社の経営を委ねるのか、株主総会で激闘がくりひろげられました。一応の決着はみたものの、多くの難問を抱えたままの再スタートであることは明らかです。資本主義の下では、会社は営利法人であり、儲けを出すことが求められていますが、会社の存在意義はそれだけではありません。株主はもとより、取引先、債権者、消費者など多くの関係者の利害に大きな影響を与えていますし、何よりも会社で働いて日々利益を生み出している従業員やその家族の生活を支えています。雨降って地固まることを祈りたいと思います。

 それでは、みなさま、1年間お読みいただきありがとうございました。

 よいお年をお迎えください。

【筆者略歴】

須藤 典明(すどう・のりあき) 日本大学大学院法務研究科教授。司法研修所教官(民事裁判・第一部)、東京地方裁判所部総括判事、法務省訟務総括審議官、甲府地方・家庭裁判所長、東京高等裁判所部総括判事などを経て現職。弁護士。

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