【生産性を上げる会議術】第11回業務改革のための会議運営ガイド

■はじめに

 これまで、会議のさまざまな局面で使えるさまざまなテクニックを紹介してきたが、今回は、それらを組み合わせていかに使うのかを紹介する。

 今回のテーマは、「業務改革」だ。業務改善なら、日常的にやっていることだと思うが、業務改革というと少しハードルが高い印象を受けるのではないだろうか。その印象の通り、業務改善と業務改革には違いがある。

 業務改善は、現行の業務プロセスや組織体制をあまり変えることなく、今の仕事をより良くしようとする取り組みであるのに対して、業務改革では、業務プロセスや組織体制も含めた抜本的な見直しが行われる。

 そのため、業務改革を行おうとすると多くの人を巻き込む必要があり、その過程で会議も増える。多くの人を巻き込んだ会議は、きちんと段取りを準備しておかなければグダグダになり、時間を浪費するばかりで、得られるものが少ない。

 では、どのように進めればよいのだろうか。

 業務改革というと、トップダウンといった印象が強いかもしれない。経営トップがきっかけとなった改革は、予算や体制が動くため(少なくともスタート時点では)順風満帆だ。しかし、きっかけは経営トップとは限らず、課題を抱えている現場やコーポレートスタッフが力を合わせて改革を主導するミドルアップ・トップダウンのケースも少なからず存在する。

 今回は、より困難なミドルアップのケースを想定して、その会議の進め方を考えてみよう。

■部門横断でキーマンを探す

 まず、会議に誰を呼ぶか。最初の時点では、まだトップの合意も得られていないため、大人数を巻き込む前に、各部門のキーマンになりそうな人だけを上長を経由して紹介してもらう。

 後に、抵抗勢力になりそうな人も巻き込んでいく必要があるが、この時点ではまだよい。課題意識があって、顔が利き、突破力がある人が理想だ。

 また、後ほど経営トップに進言をしてもらわなければならないため、後ろ盾となる役員に最初のキックオフの時点から入ってもらえると、実現可能性がぐっと高まる。ただ、会社の文化や偉い人の人柄にもよるため、一概によいとは言えない。

■まずは大枠を握る

 人選が決まったら、小キックオフを開催する。この際、議論する順番をコントロールすることが重要だ。

 最初に現状の課題や具体策から議論し始めてしまうと、課題は無限に出てくる。また、どの具体策を優先すべきかについて合意する基準がないため、議論が泥沼化しやすい。

 そこで、最初に「大枠の方向性」について合意を得ることが大事だ。課題意識がある人を集めたとはいえ、その方向性があっているとは限らない。きちんと言語化しておくべきだ。

 大枠の方向性について合意を得る際は、顧客視点に徹するのがポイントだ。顧客体験を理解するために、自社の商品を自分たちで買ったり、コールセンターに問い合わせたりしてみると、多くの気付きが得られる。

■コンセプトダイアグラムであるべき姿を可視化する

 顧客視点に徹して、あるべき姿を描く際に、役に立つ手法がコンセプトダイアグラムだ。コンセプトダイアグラムは、理想的な顧客の心理変容をモデル化し、そこに導くために企業が何をすべきかをシンプルにまとめたものだ。ウェブサイト設計やUX(ユーザー体験)デザインで用いられる手法だが、業務改革を行う際、理想の顧客体験と業務のあるべき姿を可視化する際にも有用だ。

 コンセプトダイアグラムは、次のようなステップで作成する。一人で作成することもできるが、今回の目的は、関係者間で理想の顧客体験を描くことなので、関係者みんなでワークショップ形式で開催するとよい。

0.事前に事業理念や顧客像について合意する

 業務改革を行おうとしている事業は、誰にどのような価値を提供しているのかを言語化し、合意しておく。顧客像は一人に絞る必要はないが、どういう特徴を持った人かの共通項を探って、グルーピングをして、分かりやすい名前をつけておくとよいだろう。

 この時点で、各自の意見がバラバラでまとまらない場合は、第4回の「ビジョンを決める会議、どうやりますか?(https://b.kyodo.co.jp/business/2019-04-23_2233031/)」をご参照いただきたい。

 事業理念や顧客像についておおよその共通認識ができたら、コンセプトダイアグラムを描き始める。

 今回は、金融商品(株式)のコンセプトダイアグラムを例に説明する。

1.スタートとゴールを設定する

 まず、ゴールを設定する。自社の商品やサービスを使った場合、顧客にどのような心理状態になってほしいのかを右下に配置する。ゴールには、企業視点の受注・納品などの短期的なものではなく、顧客が自社商品・サービスを使いこなしてファンになった時にどう感じているかを想像して、理想的な状態を描く。

 次に、スタートは想定される見込み顧客の状態を左上に書く。ニーズが顕在化している顧客だけをターゲットにしてもよいが、まずは、自社の商品やサービスに対して無関心な状態からスタートすると気付きが得られやすい。

2.軸を設定する

 次に縦軸・横軸を設定する。ゴールに到達するために、必要や要素を軸として設定する。

 よい軸の設定はなかなか難しいため、最初は知識系の軸とモチベーション系の軸に限定して設定してみるとよい。その際、「○○の知識」、「○○のモチベーション」のように、具体的な言葉を入れる。また、それらの知識やモチベーションの二つが高まれば、ゴールに到達できる必要がある。

3.スタートからゴールに至るまでの顧客の心理変容のステップを書く

 次にスタートからゴールに至るまでの顧客の心理状態の変容を書く。シンプルに表現するため、心理状態は短い言葉でよいが、具体的にはどのように思っているのかを吹き出しで例示しておくとイメージがしやすくなる。

 

4.ステップアップのための施策を洗い出す

 最後に、ステップを結ぶそれぞれの矢印に対して、ステップアップのための施策を考える。施策は既に行っているものでもよいし、この時点では抽象的なものでよい。

 このコンセプトダイアグラムが、理想的な顧客体験であるならば、業務プロセスや組織体制もこれにフィットした形で再設計すべきだということになる。もし、現在抜けているプロセス・組織があるなら、そこをどうするか検討する必要があるし、余分なプロセス・組織があるなら廃止を検討する。

■次に現状

 大枠のビジョンと方向性についてチーム内で合意ができたら、ここでようやく現状を省みる。現状分析をする際は、QC(品質管理)七つ道具の一つである特性要因図(魚骨図)が有名だ。しかし、現実の問題構造は、さまざまな事象が絡み合っており、魚の骨のように一直線の因果関係が描けないことが多い。

 そこでオススメなのが、第1回で紹介した簡易な因果ループ図だ。

 因果ループ図とは、現状の問題・課題・違和感などを洗い出し、それらの因果関係を矢印で結んだものだ。正確には細かい表記ルールがあるが、全体の関係性が理解できればよいので、箱と矢印だけでもよい。

 因果ループ図を使うメリットは、全体の因果関係を理解し、悪循環を起こしている部分を特定できることだ。その悪循環を断ち切ったり、好循環に転換させるような効果の高い施策にフォーカスできる。

 現状分析も精緻にやるとかなり時間がかかるし、実際に大きく投資する前には検証が必要なので、この時点では7〜8割の正確さで十分だ。また、適切なキーマンを集めることができれば、短時間で出した仮説でも、ある程度の精度は保てるだろう。

■現状から理想に至るステップを描く

 現状分析から、どこにフォーカスすべきかが決まったら、次はそこから理想に至るまでのステップを描く。

 まず、現状の課題が理想とどう関連するのかを確かめる。現状から理想形に一足飛びに行けるのであればそれでよいが、だいたいの場合は、そう簡単にはいかない。理想形に至るまでに、まずどの状態を目指すのか、次にどういった状態を目指すのかといった形で、何段階かサブゴールを設定する。

 ここまでの会議は1日くらい集中して行えるのが理想だが、草の根活動でまとまった時間が確保できない場合は、毎週1時間ずつに分けてもよい。ただ、何カ月も時間をかけるのはNGで、長くても1カ月以内にまとめるべきだ。

■意思決定者の後ろ盾を得る

 顧客にとって理想的な業務の状態とは何か、現状はどうなっているのか、そして、どのようなステップで理想形に持っていくか。これらの大まかな方針がまとまったら、実際に動き出す前に、意思決定者にいったん相談をして、感触を確かめておくとよいだろう。

 意思決定者は、事業部内に閉じた改革で済むのであれば、事業部のトップだろうし、会社全体を横断した改革が必要であれば、経営トップになる。

 意思決定者の階層が上がるごとに、巻き込むべき人たちの範囲が広がる。そのため、まずは仮説レベルで相談した後に、ある程度の検証をした上で、再度説明をし、意思決定者の後ろ盾を得るという流れにする。

■小さく仮説検証をする

 検証の精度は投資規模の大きさや仮説の種類にもよるだろう。投資規模があまり大きくない場合、検証は厳密なものである必要はない。現場に行って、自分たちが課題と思っていたものが、本当に優先度が高いものかを確かめに行く程度で十分だ。また、顧客視点で進める改革のため、顧客に直接話を聞いたり、顧客が自社の商品を購入したり、使うシーンを見せてもらうとよい。

 やってみなければ分からない種類の仮説であれば、小さくまずやってみるというステップを挟むのがオススメだ。

■実働メンバーを巻き込みながら、施策を具現化する

 小さく仮説検証をして、意思決定者の後ろ盾も得られたら、今度は実際に動く現場のメンバーを巻き込みながら、施策を具体化していく。

 短時間で描いた現状から理想に至るまでのステップは、どうやってそれを実現するかの具体論が欠けていることが多い。その具体論は、実働メンバーにアイデアを出してもらう方が現実的だ。なぜなら、本社の上の方だけで決めたふわっとした施策は、現場から見ると、実効性に乏しいことが多いからだ。

 また、自分たちでアイデアを出す過程で、参加意識を高め、自発的に動いてもらうようにするといった意図もある。

■施策はなんでもかんでもやらない

 多くの人たちでアイデア出しをすると、たくさんの施策が出てきて、どれもやった方がよいように思えるかもしれない。

 だがそれでは、第10回(https://b.kyodo.co.jp/business/2019-10-23_5055130/)で紹介したように、会議のたびにやることが増えて、結局のところ一番大事な仕事に集中できなくなってしまう。そこで、次のようなステップで、やるべきことを絞るとよいだろう。

 まず、現状から理想に至るステップを進める上で、最も効果が高そうなものを皆で投票して絞り込む。

 次に、縦軸を対応コスト・難易度、横軸を重要度として、上記で絞った施策をマッピングしてみる。重要度が高く、対応コストが低いものが、優先度の高い施策となる。

 施策の対応コスト・難易度が高いが、どうしてもやるべきものがあれば、それは少し未来の予定として組み入れるとよいだろう。

 優先度が高い施策に絞った上で、再び現状から理想に至るステップに立ち返り、理想に至るために過不足がないかを確認しよう。

■増やす前にまず減らす

 簡単な施策であっても、現場からみると業務が増えただけに見え、抵抗を招くことがある。

 そういった抵抗をなくすためにも、施策を増やす前にまず現行の業務を整理して、意味が薄いものを減らすことも同時にやるべきだ。

 現行業務を減らす際に役に立つフレームワークがECRSだ。ECRSとはEliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(交換)、Simplify(簡素化)の頭文字をとった略語で、業務改善をする際の視点と順番を示している。

 Eliminateのステップでは、現行業務の中でなくすことができるものがないかを洗い出す。

 Combineのステップでは、類似の業務や重複している作業を統合して一つにまとめられないかを検討する。

 Rearrangeのステップでは、業務の順序や場所や担当者を入れ替えたり、何かで代用したりすることができないかを考える。

 Simplifyのステップでは、作業手順を単純化することができないかを考える。

 ECRSによって、現行の業務を減らすことにより、改革の施策を実行できる時間を創出する。

■KPIで部門間の足並みをそろえる

 施策が決まり、施策を実施するための時間を確保したら、もう動き出すしかない。だが、ここまで状況を作っても、動かない人は動かない。また、動き出したとしても、各部で足並みがそろわず、ちぐはぐな状態になってしまうことがある。

 そこで役に立つのがKPIの設定だ。KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、目標とする成果に結び付く重要な指標のことだ。

 例えば、電子商取引(EC)サイトの売上目標が月商100万円で、サイトのあるページを見た人の5%が問い合わせを行い、問い合わせをした人の半数が平均1万円のものを買う場合で考えてみよう。

 この場合、目標を達成するには単純に計算すると、問い合わせの件数が月間200件必要で、サイトのあるページに月間4000人に訪問してもらわなければならないことになる。

 サイトを管理している部門と、問い合わせに対応する部門が異なる場合は、各部でこの数字を参考にすることで、足並みをそろえることができる。

 KPIを設定する際のポイントは以下の通りだ。

・KPIを全て達成したら、目標が達成できるようにする

・シンプルで誤解の少ないものを選ぶ

・数字を意図的にコントロールしづらいものを選ぶ(数字遊びを防ぐ)

・計測にあまりコストがかからないものを選ぶ

・高すぎず、低すぎない目標値を設定する

 KPI設定のヒントとなるのが、最初に整理をしたコンセプトダイアグラムだ。コンセプトダイアグラムを元に、顧客の心理状態を理想的な方向に向かっているかを示す指標は何かを、それぞれの矢印ごとに議論をして、各部で分担を決めていくとよい。

■改善・見直しのサイクルをつくる

 KPIを設定して、各部が動き出せば、なんとなく仕事をした感が出てくるかもしれないが、これは始まりにすぎない。

 新しい業務プロセスでは、最初にいろいろな問題が噴出することが多く、その対応を行わなければならない。また、しばらく経過すると、効率のよくない部分や余計な仕事も増えているため、定期的に見直しを行うサイクルを作る必要がある。

 このサイクルをきちんと回していく際に、最初に施策のアイデア出しをした各部のキーマンが再び力を発揮してくれることだろう。

■まとめ

 今回は、これまでの会議術の応用編ということで、業務改革の会議の進め方について取り上げた。

 細かくステップを書いたので、時間がかかりそうに見えるかもしれないが、会議時間としては10〜15時間もあれば十分だ。つまり、詰め込めば2日で実施できる。逆に、細かい会議のステップを設計せずに、業務改革の議論を始めると、3カ月かけても何もアウトプットが出せないだろう。

 業務改革のようなテーマでは、会議にいくら時間をかけても、あまり精度が高まらない。適時キーマンを巻き込んだり、実際に小さくやってみて仮説を検証することで精度が高まる。実践と事実を重視して取り組むことをおすすめする。

【著者略歴】

伊勢川暁(いせがわあきら)ドリーム・アーツサービス&プロダクトデザイン本部 INSUITEグループ マネージャー。コミュニケーション・デザインから企業変革を支えるクラウドサービス「INSUITE」の開発に従事。個人でも、人工知能(AI)で会議を短く創造的にする「minmeeting」のサービスを立ち上げ中。

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