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【コラム】無駄な仕事を温存し続けるのはAI社会への対応策なのか

IT担当大臣がすごい。

いろいろかっ飛ばしている。自身の公式ホームページが数カ月前から閲覧できない状況にある、なんて、そうあることではない。

そもそも、「今度のIT担当大臣はスマホが使えるらしい」と報道され、「おお、前よりはだいぶましかな」って感じる国って、なかなかすごいと思うのだ。大臣だけの問題ではない。そういう国だから、あの大臣が選ばれるのだ。

と同時に、デジタルトランスフォーメーション(=DX。デジタル技術で新たな価値を生み出すこと)とか第4次産業革命(人工知能やロボットを活用して現場業務を合理化すること)とかいろいろ言ってるけれども、真面目にやる気はないんだろうなあと、改めて確信する。

新しい技術を導入したり、組織構造や業務プロセスを変革したい場合、基本の考え方はスクラップ&ビルドだ。それは大昔から変わらない。

新しいものを導入する、でも昔のものも残しておく―それでは、仕事に投入しなければならないリソースは永遠に増えていく。

通信事業者は従来からの回線と、インターネットの両方を維持することに苦しんでいるし、そこまで大掛かりな話でなくとも、コンビニのレジ端末を見れば、使える決済手段がありすぎて、バイトリーダーは疲弊し、利用者は混乱し、オーナーは余計な投資をし続けている。

DXは往々にしてディスラプション(創造的破壊)とセットで、真に新しい革新は、何かを破壊した焦土の上にしか生まれ落ちない。

ところが、日本の組織は破壊や切り捨てが苦手である。破壊や切り捨ては、不満や非難を伴う。どんなリソースにも、どんなプロセスにもそこに既得権を持っていた人たちがいるので、これは絶対に避けることができない。

日本の組織は、その不満や非難を受け止めたり昇華したりするスキルが低く、どうにかして回避しようとする傾向が強い。最も簡単な回避方法は、古いものも残しておくことだ。

だから、ビジネスインフラの大部分がネット上に移行し、リアルな印章(はんこ)にメリットがなくなり、むしろ不便で安全でなく不完全な認証手段になっているのに、印章文化を残し続けている。学校では出欠をアプリで取っているのに、確認のために紙の出席票も提出するような、端的に言って何の意味もないことが横行している。

そうであるならば、改革をするごとにコストがかさみ、効率が低下し、要員が疲弊するのは必然である。

あれだけの無駄な仕事を、別のもっと生産性の高い仕事に振り替えれば、どれだけの価値を生むかと思うし、いっそその時間を遊びほうけても、生活の質が上がるかもしれない。来たるべきAI社会に向けて、人間の仕事を確保するために、無駄な作業を温存する練習をしているのかと勘繰りたくなるほどである。

あのIT担当大臣のもとで、日本がDXに成功することはない。

そもそも技術先進国という看板を考え直した方がいい。ものづくりは得意だったのだろう。その中に半導体も入っていたのだろう。でも、ものづくりと、ソフトウエアエンジニアリングは違う。日本がソフトウエアエンジニアリングで世界の先端を走っていたことなどなかった。

デジタル社会と“はんこ文化”を両立させようとする国が、GAFA(グーグル、アマゾン・コム、フェイスブック、アップル)に追い付くことは永遠にない。でも、きっとそれでいいのだろう。いっそ、「何も捨てない国」として、トップから何周も遅れたところで独自の文化を築くのもよいのではないかと、最近そう思い始めた。これは、皮肉ではなくて、本心からそう思っている。そう考えると、あのIT担当大臣は傑物なのかもしれない。

別に最先端を爆走して、勝ち組であり続けるだけが国のありようではないのだから。

【筆者略歴】

岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ブロックチェーン」(講談社)、「いまさら聞けないITの常識」(日本経済新聞出版社)など。

 

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