【コラム】誤解のなさを突き詰めた先にあるコミュニケーションとは

 人はコミュニケーションが好きである。

 それは紛れもない事実だ。

 何かの技術が登場すると、それがたとえ人と人とのコミュニケーションを想定していないものであっても、どうにかしてコミュニケーションに活用しようとして、実際それに成功する。利用者はそんな歴史を繰り返してきた。

 例えば、離れた場所にいる人を呼び出すための携帯用無線受信器「ポケットベル(ページャー)」は、どう考えても仕事向けの仕様だった。基本的に電話番号(数字)を送信するための機能しか持たない単方向通信手段で、その番号に電話をかけろ、といった形で使われる。

 しかし、1990年代のカップルや友だち同士は、「あいしてる→114106」「さよなら→3470」「さんきゅー→999」といった強引な語呂合わせによる変換手段を開発・駆使してこの小さな機器でコミュニケーションを取りまくった(その後、ポケベルは、子音と母音に割り当てた数字の組み合わせで日本語の送信に対応した)。LINE疲れやSNS疲れが指摘される20年も前から、ポケベルで疲れていた。

 どんな技術やサービスもコミュニケーションに使おうとするし、サービスの側もコミュニケーションに使ってもらえる気配をかぎ取ると、先を競ってその機能を強化した。

 技術遷移や技術進歩がコミュニケーションの形を変えることもある。最も情報量が少なく、処理しやすい情報は今に至るも文字(や記号)なので、最初は文字によるコミュニケーションが試みられる。ポケベルの数字メッセージに始まり、インターネットが浸透し、メールのサービスが一般化すると、メールのやり取りが常態化した。

 当時のインターネットは不達や遅延も多く、また受信側が能動的にメールソフトの「受信ボタン」を押さないとメールを受信しているかどうかが分からなかったので、学校の教室や職場でも週末が近づくとそわそわとやたらに受信ボタンを連打する人たちを観測することができた。

 さらに絵文字が登場すると、メールの文面はデコラティブになり、大量の絵文字を駆使して編み上げられるものになった。文字には文字コード番号が割り振られ、その番号でコンピューターは文字を認識・処理することができる。絵文字は最初、機種ごと、メーカーごとに文字コードが違う(同じ機種でないと使えない)ものだったが、いまや絵文字は国際標準の文字コード体系に組み込まれ、国やメーカーを超えてやり取りすることができる基本コミュニケーション手段に育った。

 そして、LINEのスタンプである。大きな絵文字のようだが、メッセージ性に富み、それ一つで気分や状態を伝えることができる。

 個人的な考えだが、コミュニケーションの進化は、カジュアルさと、誤解の少なさを志向して起こるものだと思っている。誤解とは、好意を伝えたはずなのに悪意に取られるとかそういうことである。

 文字のコミュニケーションは、面倒くさいし、誤解も頻繁に起こる。微妙な話をするとき、メールだと誤解されるかもしれないから直接会おうと考えたことは、誰でもあると思う。でも、絵文字であれば、スタンプであれば、誤解の可能性を小さくできる。

 コミュニケーションツールも、この方向に進化する。メールはプロトコル(通信規約)に自分の名前を書くことを必須化していないので、本文内で名乗らないと危険である。礼儀以前の問題で、そうしないと送信者が誰なのかわからないのだ。むしろ、そういう情報の構造を持っているから、後からそれにあわせてマナーが作られたと考える方が正しい。

 SNSの多くは本名やニックネームがプロトコルで必須化されているので、これらが必ず相手に伝わる。したがって、本文中で名乗る必要はない。むしろ、二重情報になって冗長なコミュニケーションに感じる。SNS世代がメールに名前も書かないと嘆いても始まらない。彼ら/彼女らはそういうインフラで育ってきたのだから。

 この傾向が続くならば、スタンプの次はアバター(分身)によるコミュニケーションが一般化するのかもしれない。より誤解を少なくすることができる。

 一つ気になるのは、カジュアルさ、誤解のなさを突き詰めていくと、コミュニケーションが理屈ではなく感情を伝えるものになっていくことだ。その場で揮発する感情のやり取りに、利用者は熱中することになる。

 コミュニケーション手段がますますリッチになっていくと、そこでやり取りされる情報の量や質、あるいは価値そのものがプアになるのだとしたら、皮肉なことではある。

【筆者略歴】

 岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ブロックチェーン」(講談社)など。

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