自然・伝統・先進の魅力あふれる街 隠れたダイバーシティ「飛騨市」

古川祭の華『起し太鼓』

 

 「岐阜県飛騨市」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。飛騨高山、白川郷、奥飛騨温泉―。実は、いずれも不正解。多くの外国人が訪れる観光地・高山は高山市、世界遺産・白川郷は岐阜県白川村、奥飛騨温泉郷も高山市だ。飛騨市は2004年に古川町、神岡町、河合村、宮川村が合併して誕生した北アルプスなどの山々に囲まれた街。中心地・古川町は、近年は大ヒット映画『君の名は。』のモデルになった街として注目された。

映画『「君の名は。』で有名になった飛騨古川駅

 しかし、日本三大裸祭りにも数えられる「古川祭」が開かれた4月19日、20日に合わせて訪ねた飛騨市は、大自然に囲まれた魅力や、伝統を受け継ぐ祭り、ノーベル賞を生んだニュートリノ研究施設「スーパーカミオカンデ」など自然と伝統、先進が融合した「ダイバーシティ(多様性)」の街だった。

▽「令和」ブーム到来?

 東京から飛騨市に行くには、北陸新幹線の開通で、富山経由が便利になった。東京から新幹線で富山まで2時間あまり、富山~飛騨古川は高山線の特急に乗り、約1時間15分で到着する。

高山線は渓谷を縫って走る

 2016年公開の『君の名は。』の“聖地巡礼”でファンが訪れたにぎわいも一息ついたJR飛騨古川駅では、一転、新元号「令和」の話題が持ち上がっていた。

茂住氏の書による駅の看板

 4月1日に菅義偉官房長官が記者会見で掲げた墨書「令和」を書いた内閣府人事課の辞令専門職・茂住修身(もずみ・おさみ)氏が、飛騨市古川町出身で、飛騨古川駅前の看板を書いたのも茂住氏なのだ。古川町内には図書館や精肉店、ふとん店など至る所の看板などに茂住氏の書が掲げられており、市観光課は急きょ「祝『令和』記念散策マップ」を作成、新たな名所にしようと乗り出した。

▽廃線レールで「ガッタンゴー」

 祭りを前に、山一つ隔てた神岡町を訪問。雪が残る北アルプスを背景に、桜は満開、見事なコントラストを描いていた。鉱山で栄えた神岡町では、2006年に廃線となった神岡鉄道の線路をそのまま使った日本でも珍しいレールマウンテンバイク「Gattan Go!!(ガッタンゴー)」が人気を集めていた。

満開の桜の中で走る「ガッタンゴー」
満開の桜の中で走る「ガッタンゴー」2

 

 旧奥飛騨温泉口駅から旧神岡鉱山前駅(約2・9キロ)を往復する「まちなかコース」に乗車。奥飛騨の町並みを眺めながら2人乗りの電動アシスト自転車(利用料は1台3000円)でゆっくりと進む。レールの継ぎ目の「ガタン、ゴトン」という響きと、心地よい風を体で感じながら約40分、自分が列車になった気分を味わった。鉄橋や緑の中を行く「渓谷コース」もあり、11月下旬まで楽しめる。

 「ガッタンゴー」の発着駅には、神岡鉄道前身の旧国鉄神岡線時代の駅舎を使った喫茶店「あすなろ」が隣接しており、乗車の待ち時間などに自家焙煎コーヒーを味わうことができる。

駅舎風の喫茶「あすなろ」店内
駅舎風の喫茶「あすなろ」では自家焙煎のコーヒーを楽しめる

▽カミオカンデを再現

 このほか、神岡には鉱山最盛期ににぎわった花街の面影が残る家屋や、だるまが山中に直立した状態で立っている「立ち達磨(だるま)」という不思議な像があるなど、小さな町に多彩な魅力があふれている。

神岡の町を見下ろす立ち達磨(飛騨市提供)

 ただ、なんと言っても神岡を有名にしたのは、神岡鉱山の地下1000メートルに設置された東京大学宇宙線研究所の観測施設「スーパーカミオカンデ」だろう。宇宙から飛来するニュートリノの観測・研究で2002年に初代カミオカンデ創設者の小柴昌俊・東大名誉教授(当時)が、2015年には梶田隆章・宇宙線研究所所長がノーベル物理学賞を受賞。世界中にカミオカの名が広まった。

 スーパーカミオカンデは知っていても、施設を見学する機会はめったにない。また、ニュートリノといっても「何度説明を聞いても分からないの・・・」という人もいるだろう。そこで(というわけでもないだろうが)、今年3月27日、道の駅「宙(スカイ)ドーム・神岡」にスーパーカミオカンデの施設を疑似体験できる「ひだ宇宙科学館 カミオカラボ」がオープンした。

 施設ではニュートリノを観測する実物大(直径50センチ)の光センサー(光電子増倍管)があり、スーパーカミオカンデの一部を本物同様に再現している。

スーパーカミオカンデを“〝体感〟”

 常駐しているサイエンスコミュニケーターから、ニュートリノ観測の仕組みなどを分かりやすく解説してもらえるほか、ゲームを使ってニュートリノに親しめるなど新たな名所となっている。

ノーベル賞の梶田所長と記念撮影

▽天下の奇祭

 飛騨三大祭りは「高山祭」「古川祭」「神岡祭」だが、豪華絢爛(けんらん)な屋台が街を彩る高山祭は、京都・祇園祭と並ぶ曳山(ひきやま)祭りとして多くの観光客を集めている。ところが、400年以上の伝統がある古川町の気多(けた)若宮神社の例祭「古川祭」は、“天下の奇祭”と言われ、国指定重要無形民俗文化財で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産「山・鉾(ほこ)・屋台行事」の一つにも選ばれており、忘れるわけにはいかない。

豪華な装飾の屋台が町を練り歩く

 毎年、4月19日、20日に開かれ、桜の時期とも重なるため、古川町の人は「春が来た」と感じるという。白壁土蔵街など古い町並みを色鮮やかに装飾された9台の屋台が曳行(えいこう)される様子は、高山祭にも引けを取らない美しさだ。三段構造の屋台は町内の地区ごとに飾りや彫刻などに特徴があり、豪華さを競い合っている。「青龍台(せいりゅうたい)」「麒麟台(きりんたい)」によるからくり人形の上演や「白虎台(びゃっこたい)」の子供歌舞伎などが祭りを盛り上げる(子供歌舞伎は地区内に該当する年代の子どもがいなかったため今年は披露できなかった)。獅子舞奉納も町のあちこちで披露される。

からくりの上演も大人気だった
独特な舞いを披露するの獅子舞奉納

▽大迫力!「起し太鼓」

 豪華な屋台を曳(ひ)き回し、1カ所に勢ぞろいする「屋台曳き揃(そろ)え」などが見られる2日目が古川祭の本祭りだが、実は前夜に行われる「起(おこ)し太鼓」が祭りの華(クライマックス)と言っていい。「出立祭」の19日午後8時が近づくと、さらし姿の裸の若者が各地区から気勢を上げながら次々と「まつり広場」に集まってくる。「古川やんちゃ」の男たちだ。始まるのを待ちきれずに「付け太鼓」と呼ばれる小太鼓が付いた木の棒の上によじ登り、頂点で腹ばいになって度胸を競い合う。

「古川やんちゃ」の「とんぼ」

 その後、「主事組」と呼ばれる今年の幹事団が乗り込む櫓(やぐら)の大太鼓(直径80センチ)を2人の若者がたたきながら夜遅くまで町中を練り歩く。それを他の地区の「やんちゃ」たちがわれ先に追いかける様子は“奇祭”そのものだ。古川町の人によると、「祭りだ!祭りだ!寝てる場合じゃないぞ!」と氏子たちを起こして回ったことから「起し太鼓」と言うのだそうだ。

櫓を追いかける「やんちゃ」たち

 飛騨市の都竹淳也(つづく・じゅんや)市長も古川町出身で、古川祭には毎年参加しているという。「起し太鼓」の前に、自ら自治体関係者らを案内し古川祭の魅力を解説していた。

飛騨市長が自ら祭りを解説

▽「動」と「静」

 祭りが終われば古川町は、白壁土蔵の堀を流れる川にコイが泳ぐ静かな町だ。「動」の祭りと「静」の町並み。そのコントラストが一層、旅情をかき立てる。土産物の店が少なく、観光地らしくないのも魅力だ。

白壁土蔵の落ち着いた町並み
コイも優雅に泳いでいる

 飛騨市は中心地・古川町以外にも神岡町、宮川町、河合町がある。2、3日の旅程では探りきれない“多様性(ダイバーシティ)”がまだまだありそうだ。

 

 

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