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【コラム】迷惑なものからお金を取る、という発想

 迷惑メールはとても迷惑である。

 でも、遮断するのは難しいし、手間もお金もかかる。ただでさえ迷惑なものに、さらにお金をかけるというのも業腹である。だから放置して、来たものは消す。そんな対応をもう何十年も続けてきた。

 昨年、そんな迷惑メール業界で、面白いサービスがいくつか登場した。例えば、契約すると迷惑メールを別枠に保存して、利用者の目に触れさせないようにするメールサービスである。

 迷惑メールを自動的に専用フォルダに移動するくらいのサービスは、どのプロバイダーもメールアプリも実装しているが、このサービスが独創的だったのは、迷惑メールの送信元にお金を要求することだ。

 迷惑メールの送信元が、要求に応じてお金を払えば、迷惑メールは利用者へ届けられる。支払われたお金は、メールサービス事業者と利用者で折半するので、迷惑メールが届けられる利用者にもメリットがある。

 実際には、この方法にはとても問題がある。

 「迷惑メール」の定義にもよるが、例えば特定電子メール法に抵触するメールであれば、法令違反を犯していることになる。そんなメールを、たとえ利用者が金銭的な利得を得ることができるとはいえ、送信してよいのか。

 この仕組みでは、メールサービス事業者は、メールの内容を検査して、迷惑メールと判定したものを利用者に届けない。しかし、迷惑メールの疑いが濃いとしても、利用者に向けたメッセージを検閲・破棄してしまってよいのか。

 いずれも、きちんと議論・解決しなければならない課題である。

 それを踏まえてもなお、このサービスは面白いなあと思った。法的・倫理的な是非はともかく、今まで思いもしなかった箇所に利潤を生じさせる視点は重要である。

 それでなくても、インターネットはさまざまなものを「無料」で流通させる圧力が強いのだ。リアルであればお金を払うのが普通のものが、インターネットではタダでなければ流通させてもらえない。

 そのお陰で、利用者としての日々の生活は圧倒的に便利で快適になったが、一方で情報をつくって対価を得ていた人は、暮らしが立ちゆかなくなってしまった。

それなりの質と量を備えた情報をつくり出すのは、やはり大変な作業なので、正当な対価を得られる仕組みを用意しておくことは重要である。これまでは、お金を還流させる仕組みは広告モデルに頼っていたので、インターネット上の情報は広告効果がありそうな高インパクトでスキャンダラスなものの割合が増大してしまった。

近年に至って、この状況を少しずつ変えようとする動きが広がっている。例えば、ニュース記事はお金を取り始めた。何もイベントを経ず、いきなりお金を徴収し始めることはとても難しいが、幸い近年のIT業界にはスマホシフト、スマホのファーストスクリーン化があったので、「PCはタダだけど、スマホで見るならお金を取る」といったモデルを導入することができたのだ。

本来であれば、これはおかしい。

スマホは凝縮されたPCであるし、PC版の情報をスマホで見ることはたやすいからだ。同じスマホで同じものを見ているのに、ブラウザーでPC版を見るのは無料で、アプリを使ってスマホ版を見るというのは理にかなっていない。でも、それでお金を払う利用者は多かったのである。見せ方や言い方は、かようにとても重要だ。

こうした下地があったところに、「一般利用者であっても、その情報を利用したり、手間を取らせたりするのであれば、対価を支払うべきだ」といった発想を持つサービスが登場するのは、自然であり必然でもあると思うのだ。

今年に入って急速に議論が進んだ「情報銀行」も、その文脈で捉えることができる。次回は情報銀行の話をしよう。

【筆者略歴】

岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部開設準備室副室長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ビッグデータの罠」(新潮社)など。

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