「COPDセミナーin沖縄」でCOPD患者の呼吸を楽にするリハビリを学ぶ参加者。

やっかいな病気“COPD”にどう立ち向かう? 沖縄で理解深めるセミナー

 「マッチ擦るつかのま海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや」――波止場に独り佇み紫煙くゆらす歌人(寺山修司)の思案顔が浮かぶ。この歌人のもう一句、「煙草くさき国語教師が言うときに明日という語は最もかなし」はどんな情景が浮かぶか…。

 喫煙者に多い「COPD」(シーオーピーディー、慢性閉塞性肺疾患)。男性の死亡原因の第8位(2017年)の病気で、長期の喫煙習慣などが主な原因とされる。「煙草くさき国語教師」の“明日”にCOPDの“影”がちらついて見える。

 COPDは重症化すると自力での呼吸が困難になるやっかいな病気だ。その割に一般にはまだまだ馴染みがない。このためCOPDの症状である慢性の咳や痰、呼吸困難などの症状が現れてもCOPDと自覚する人は少ない。早期発見・治療が難しい病気の一つだ。

 全国の推定患者数はおよそ530万人。このうちCOPDと診断され治療を受けている患者は26万人(14年)にすぎない、という。

大勢の医療関係者が参加した「COPDセミナーin沖縄」。

 このような認知度が低いCOPDへの理解を広げようと医療関係者対象のセミナー(フィリップス・ジャパン主催、NPO法人日本呼吸器障害者情報センター、沖縄タイムス社など後援)が2018年11月17日、沖縄県那覇市のホテルで開かれた。専門家の講演だけでなく、呼吸を楽にするなどCOPD患者の症状を和らげるためのリハビリテーション実習もあり、医師や看護師、理学療法士、作業療法士など100人を超える医療関係者が参加し、COPDへの認識を深めた。

事業方針を語る堤社長。

 主催者を代表してフィリップス・ジャパンの堤浩幸社長が「毎年11月中旬の水曜日は世界COPDデーと位置付けられている。これを機会に沖縄の皆さんと一緒にCOPDについて考え、今後どう対応すべきかを、沖縄の地で開くこのセミナーで検討したい」と冒頭あいさつした。

 その上で山梨県の自治体・企業らの協力を得て実施している住民の健康データを活用した健康増進の取り組みも紹介。「フィリップスは地域の医療行為をサポートすることを重視している。地域に最適なサービスを提供するには、全国を標準化したデ―タを踏まえただけでは不十分だ。沖縄なら沖縄の皆さまの生活パターン、喫煙習慣、食習慣などのデータを踏まえた有効な健康サービスを皆さんと一緒に築いていきたい」と協力を求めた。

セミナー開催の意義を強調した名嘉村院長。

 この日のセミナーで座長を務めた医療法人HSR名嘉村クリニックの名嘉村博院長は「COPDは昔、患者もどういうものか分からなかったし、医者も必ずしも分かっていたわけではない。沖縄はCOPDでの死亡率は少なくとも数年前は全国の2倍だった。本日のセミナーは、医者だけでなく、COPD患者さんと接しておられる現場の看護師さんや理学療法士さんらにとって有意義な一日になる」と強調した。

 COPD患者とその家族の立場を代表して、COPD患者の夫を08年に亡くしたNPO法人日本呼吸器障害者情報センター(J-BREATH、ジェーブレス)理事長の遠山和子さんが「COPD患者をめぐる療養生活の課題と提言」と題して講演した。

患者会の立場からCOPDへの理解を訴えた遠山さん。

 遠山さんは「夫が患者となった当時、COPDは世間であまり理解されていない疾患だった」と振り返り、患者会のジェーブレスを00年に立ち上げた理由を説明した。その上で「COPD患者の呼吸苦は(現在も)周囲に理解されず、患者は孤立しがち。患者同士が交流し、互いに励まし合うことが重要」と訴え、沖縄県内の患者会設立を呼び掛けた。

 琉球大医学部付属病院第一内科講師の宮城一也氏は「COPDはたばこを吸っている人の10人に1人がなる疾患。沖縄県の10万人当たりのCOPD死亡率は、全国平均よりやや高い(17年)。年々全国平均に近づいているが、死亡者が激減しているわけではない」と県内の状況を説明した。

講演する宮城氏。

 COPDの診断に際しては「ただの風邪かどうかまず疑うことが大事だ」と医師の心構えを説き、▽喫煙歴 ▽咳、痰、喘鳴(ぜんめい)▽階段や坂道の上りでの息切れ ▽風邪症状時の咳、痰、喘鳴、息切れ▽風邪の症状の繰り返しや回復の遅滞▽心血管疾患、高血圧症、糖尿病、脂質異常疾患、骨粗しょう症などの患者かどうか―を判断ポイントに挙げた。

 またCOPDかどうかを判断する身体所見の具体例として、喉仏から胸骨までの距離が2本指の幅以下の場合と呼吸を補助する首の両側の筋肉「胸鎖乳突筋」(きょうさにゅうとつきん)が親指より太い場合、の二つを挙げ、慎重な観察を勧めた。

 さらに診断後の治療に際しては「リハビリが非常に重要」と強調し、COPD患者の呼吸困難を軽減する「リハビリを積極的にやってほしい」と訴えた。

リハビリを指導する神津氏。

 講演後は、長崎大大学院医歯薬学総合研究科 医療科学専攻理学療法分野 教授の神津玲氏や沖縄リハビリテーション福祉学院理学療法学科長の比嘉優子氏、那覇市立病院リハビリテーション室理学療法士の安村大拙氏を講師に、COPD患者を対象とした症状緩和のリハビリやCOPD診断に際しての触診所見のやり方を教える実習が行われた。

 理学療法士らおよそ50人が参加し、数人のグループに分かれてお互いCOPD患者役を演じるなどして本番さながらの真剣な表情で、盛り沢山のリハビリメニューの習得に励んだ。

横隔膜の位置を確認する参加者。

 神津氏らはCOPD患者に対するリハビリの目的は「患者さんやご家族が満足して充実した生活をできるだけ長く送ってもらうために行うもの」と指摘。呼吸困難の軽減や身体活動の維持・改善、体重減少の予防など介護者が施すリハビリのほか、患者自らできるリハビリも含めて見本を示した。

 参加者は患者役の胸や背中などを押したり触ったり、さすったりすると、呼吸が楽になる正確な箇所や力の入れ具合などを、一つ一つ丁寧に確認していた。患者自ら行う「自己呼吸介助」としては、手のひらをクロス状に重ねて胸のあたりに置く方法などが紹介された。

 神津氏ら講師に熱心に質問していた参加者の男性は「COPD患者対象のリハビリ講習は初めて受けた。具体的な内容だったので、現場ですぐに生かせそうだ」と話した。

 神津氏は「COPDはまだまだ世間に認知されていない。COPDという名称も世間に浸透しない原因の一つだと個人的には思っている。COPDの最も有効な予防対策はたばこを吸わないことだろう。電子たばこでもリスクは変わらない。今後もCOPD対象のリハビリの普及に努めていきたい」と語った。

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