【会社法入門講座③】「執行役員」は「役員」じゃないの?

執行役員制度を廃止したり変更したりする会社が増えてきた

 最近では、このような執行役員制度の弊害を認めて、執行役員制度を廃止する会社も出てきました。キッチンやトイレなどの設備の専門メーカーであるLIXILグループやロート製薬などが執行役員制度を廃止しました。資生堂は執行役員の任期を原則1年から2年に延ばすとともに、役員指名諮問委員会や取締役会による執行役員の監督を強化するなどの制度変更をしました。今年11月15日には、日本最大の企業であるトヨタ自動車が、現在33人いる常務役員という名称の執行役員を廃止して、執行役員を55人から22人に減らすことを発表しています。

 また、執行役員は役員ではなく従業員であり、会社と雇用関係があるため(雇用関係型)、事業に失敗しても故意や重大な過失がない限り解雇はできず、株主のコントロールも効きにくく、「大きな権限に小さな責任」という制度であるとの批判に応えるため、執行役員に就任する際には、いったん、従業員を退職して、改めて会社と委任契約を締結する形態(委任関係型)に変更することなども提案されています。

 仮に委任関係型の執行役員制度になると、委任関係ですから、契約の際に何も定めていなければ、会社はいつでも執行役員を解任することができるようになります。委任関係型は、会社にとっては都合がいい制度ですが、従業員にとっては、執行役員への就任には大きなリスクが生じることになります。一長一短というところでしょうか。

会社法では「執行役」という制度もできている

 このように、執行役員制度は、さまざまな意味で曲がり角を迎えていますが、現在の会社法では、正式に「執行役」という制度も定められています。執行役員と紛らわしいのですが、制度としては全く別のものです。普通の会社では、取締役がいて取締役会があり、代表取締役や業務執行取締役が会社を代表して業務を執行するのですが、2002年の商法の改正で新たに制度化された「委員会等設置会社」では、アメリカの大規模な会社で採用されている経営と監督の分離を目指して、取締役(取締役会)の役割は経営方針の決定と業務執行の監督にシフトし、取締役(取締役会)は具体的な業務の執行はしないことになり、業務の執行は「執行役」という新たな機関が担当することになりました。そして、05年の会社法に引き継がれ、14年の改正で、現在の指名委員会等設置会社になったのです。

指名委員会等設置会社では「代表取締役」ではなく「代表執行役」が社長である

 このような経緯を経た指名委員会等設置会社では、これまでのような代表取締役は存在しません。取締役は、取締役会のメンバーとして会社の経営方針を決定し、業務執行者の業務執行を監督しますが、取締役として業務を執行することはありません。

 会社の業務を執行しませんから、対外的に会社を代表するための代表取締役は必要なくなったのです。その代り、会社の業務の執行は「執行役」が担当しますから、そのような執行役の中で対外的に会社を代表する権限を有するものを「代表執行役」と定めたのです。

 その結果、指名委員会等設置会社の社長の肩書は、「代表執行役社長」という名称になっています。ただし、会社法では、執行役が取締役を兼ねることは認められており(厳密にいえば、取締役が執行役を兼ねるのではありません)、普通は、代表執行役社長は取締役を兼ねていますから、「取締役代表執行役社長」というのが正式な肩書になります。

指名委員会等設置会社を前提とする「執行役」制度はあまり普及していない

 もっとも、このような指名委員会等設置会社の数は、そう多いものではありません。

 指名委員会等設置会社という組織形態の会社があまり普及していない理由としては、指名委員会等設置会社になるためには、取締役会の中に、指名委員会、監査委員会、報酬委員会という三つの委員会を設置して、各委員会の委員は取締役3名以上で、その過半数は社外取締役でなければならないこと、取締役は原則として業務執行から排除されていること、監査役(監査役会)を選任することはできず、常に会計監査人を選任しなければならないことないことになっています。これまでの会社とは組織形態がことなりすぎることなどが、多くの会社に二の足を踏ませているといわれています。

 日本取締役協会の調査では、今年8月の時点で東京証券取引所に上場している3643社のうち、指名委員会等設置会社になっているのは、ソニー、東芝、日立、三菱電機、LIXIL、東京電力、日本郵政、ゆうちょ銀行、ブリヂストン、ヤマハ、三井住友フィナンシャルなど72社(約2%)だけです。そのため、14年の会社法の改正では、指名委員会等設置会社の簡略版のような監査等委員会設置会社という組織形態も認められています。

執行役は「役員等」に含まれるが、執行役員は含まれない

 このように、執行役は、指名委員会等設置会社にだけ認められている会社法上の正式な業務執行機関であり、何も規定がない執行役員とは大きく異なります。

会社と執行役との関係は、会社と取締役との関係と同様に委任に関する規定に従うとされていますから、執行役は、取締役と同じように、会社に対して善管注意義務を負いますし、その任務を怠ったときには、会社に対して損害賠償責任を負い、株主代表訴訟を起こされる可能性もあります。

会社法では、執行役が従来の取締役の職務の一部であった業務執行を担当する役員に準ずる者であることを前提として、本来の「役員」である取締役、会計参与、監査役のほか、執行役と会計監査人を加えて「役員等」という用語も使っています。しかし、ここでも執行役員は含まれていません。したがって、執行役員を含むつもりで「役員等」と呼ぶのは、法律的には正確ではないのです。

 そして、理論的には、執行役という立場は、会社と雇用関係にある従業員としての身分ではありませんが、実際には、執行役が「〇〇事業本部長」などの重要な使用人としての役職を兼ねるのが普通ですから、その意味では従業員としての身分も併せ持っていると考えることもできます。労災保険の適用などを考える際には、従業員(労働者)としての身分もあるとする方が本人にとって有利であることは間違いありません。

 役員、執行役員、執行役など紛らわしい名称が生じているのは、会社の発展と今後の成長にとって、どのような組織形態を採用するのがベストなのかという試行錯誤の一環なのです。

 いずれにしても、どのような組織形態にも一長一短がありますから、それぞれの会社において、規模や人数や事業形態などに応じて、常に使いやすい組織形態は何かを検討し、改善していく必要があることを教えているのではないでしょうか。

それでは、今回はここまでとさせていただきます。ありがとうございました。

【筆者略歴】

須藤 典明(すどう・のりあき)氏 日本大学大学院法務研究科教授。司法研修所教官(民事裁判・第一部)、東京地方裁判所部総括判事、法務省訟務総括審議官、甲府地方・家庭裁判所長、東京高等裁判所部総括判事などを経て現職。弁護士。

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