【会社法入門講座③】「執行役員」は「役員」じゃないの?

 

執行役員は会社法上の役員ではない

 それでは、執行役員とは、どのような立場なのでしょうか。

 日本では、約7割の上場会社で執行役員という役職が定められているという調査結果があり、現在では日本の多くの会社に広く普及しています。社会的には、会社の執行役員といえば、会社のある事業部門の事実上のトップであり、その事業運営の実質的な責任者という位置付けで、役員の一部のように理解されているのが普通ではないでしょうか。

会社法は、「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。」と定めており、事業部門の責任者については、裁判以外であれば一切の権限が認められているのですが、「執行役員」という言葉は出てきません。他の条文にも「重要な使用人」という言葉はあるのですが、執行役員について定めた規定はないのです。

 意外かもしれませんが、執行役員という地位は、会社法上の正式な役員ではなく、各会社の定款や内規によって、経営責任を有する取締役(取締役会が設置されている場合には取締役会)から、ある事業部門について一定の包括的な代理権限などを付与され、取締役や取締役会を補佐する立場にある上級幹部従業員に与えられた役職・肩書の一つなのです。

 先にご説明したとおり、会社法では、役員である取締役、監査役および会計参与については株主総会で選任され、解任されることになっていますが、執行役員は、会社法上の正式な役員ではありませんから、株主総会で選任され、解任されることはありません。

 会社を経営する取締役(取締役会)において、従業員の中から適宜、任命し、解任することができます(ただし、執行役員の地位から解任することが降格を伴うような場合には、就業規則違反を理由に争うことができる場合もあります)。

 もっとも、日本の多くの会社では、取締役の役割は、業務の監督に特化されているわけではなく、特定の事業部門の執行をも任されているのが普通のことですし、実際には、取締役として役員の地位にある者が、特定の事業部門の指揮を任され、その責任者であることを示すために執行役員という呼称を与えられていることも少なくありません。

 そのような場合には、「取締役執行役員」という肩書になっているのが普通です。さらには、「代表取締役執行役員社長」という肩書の人もいます。この場合には、社内で、「代表取締役」と「執行役員」と「社長」という三つの地位を持っているのですから、正に会社の最高権力者なのですが、ここでも、会社法では「代表取締役」だけが正式な会社の機関ですので、代表取締役を最初に書くのが普通です。もちろん、取締役が全員、執行役員を兼ねているわけではありませんし、執行役員のほとんどは取締役ではありません。

なぜ、執行役員という役職が日本の会社に普及したのか?

 それでは、なぜ、このような執行役員という紛らわしい役職が日本の会社に普及したのでしょうか。実は、この執行役員という制度は、そう昔から行われていた制度ではありません。今から21年前の1997年6月に、ソニーが日本で初めて導入したものといわれています。

 先にご説明したとおり、日本の多くの会社では、サラリーマンとして入社した従業員が、年功序列を前提に、経験や勤務年数などに応じて順次昇進し、その後、上級管理職への選抜を受けて部長や本部長などの幹部従業員となり、定年近くになって最終的な上がりのポストとして取締役に昇進するという人事処遇が行われていました(今もそのような会社が多いと思います)から、幹部従業員の取締役昇進への期待も強くなり、これに応えるためにも取締役のポストが増えてしまいました。

 しかも、日本の経済発展、高度成長とともに会社の規模も大きくなって、これを可能にしていました。97年当時のソニーには、代表取締役社長以下、全部で38人もの取締役がいたのです。

 しかし、ソニーに限らず、取締役が何十人もいれば、取締役会で実質的な議論を尽くすことは難しくなりますし、その取締役は何十年も会社に勤務してきた従業員の中から選抜されていて、長年、先輩・後輩の関係が続いていますから、取締役になっても先輩・後輩の序列があり、「専務取締役」「常務取締役」「取締役」という階層になっています。

 先輩の専務取締役が発言すれば、後輩の平取締役は文句を言いにくいのは当然のことで、自由な議論がしにくくなっていました。しかも、取締役会で取り上げて検討するには、その前に「常務(役員)会」や「専務(役員)会」の了承を取り付けなければならないことになり、事前の根回しや調整に多くの時間や労力がかかって非効率にもなります。取締役会が形骸化して責任の所在すら曖昧になり、事業遂行の迅速性や円滑性に欠けるなど、さまざまなマイナスが出ていたのです。

執行役員という役職は増え過ぎた取締役を整理する方策だった

 そこで、取締役を少人数に絞って、取締役会の機能を回復させようという議論が出てきました。取締役の本来の役割は、会社の経営に携わるということであり、取締役会で会社の経営方針や重要な事業内容などを決定した上、その決定事項に従って具体的な業務の遂行を指揮、監督していくためには、アメリカの会社を一つの模範として、会社の業務執行とその監督とを分離し、取締役の役割は、会社経営の大きな方針の決定と、取締役ではない別の業務執行者による具体的な業務執行の監督にあるというわけです。

 そのような業務の執行と監督とを分けるための委員会制度を正式に設けるための商法改正も検討され始めたのです。当時は、まだ現在の会社法は制定されておらず、会社に関する諸制度も商法の中に定められていたのです。

 しかし、実際問題として、取締役を大幅に削減して取締役会をスリム化させるには、せっかく取締役になったのに取締役という地位をはく奪される元取締役や、取締役になるために頑張っている幹部従業員たちの不満を吸収し抑えこむことが必要不可欠です。

 もちろん、正式な取締役でなくなっても、会社内では取締役時代とほぼ同様の待遇を認める前提ですから、元取締役やこれから役員に昇進したいと思っている幹部従業員にとって、実質的な不利益はほとんどありません。本当の問題は、「役員」と呼ばれたい、「役員」と呼ばれないのは寂しい、という元取締役や幹部従業員の精神的な抵抗感をどう払拭するかということでした。

執行役員という名称はアメリカの制度を参考に考え出された

 そこで、アメリカでは、取締役(board member)ではない業務執行者を「executive officer」 などの名称で呼んでいることを参考にして「執行役員」という名称を考えたのです。

 会社法では、「役員」というのは取締役、監査役、会計参与を指す用語ですから、取締役でも監査役でも会計参与でもない人の名称を「執行役員」とするのは紛らわしく、法令用語としては適切ではないのですが、取締役の重要な職務の一つである業務執行を担当する役員に準ずる者という絶妙なニュアンスがほしかったのです。結局、「執行役員」という名称に落ち着きました。曖昧さがよかったというわけです。

 しかも、執行役員は、会社法上の役員ではありませんから、株主から株主代表訴訟で損害賠償責任を追及されることもないので、かえって安心したという意見もあるのです。また、執行役員は会社法上の機関ではなく、定款で特に要件を定めない限り、取締役会で決定すれば自由に任命することができますので、会社にとっても好都合でした。

 取締役による業務の執行と監督の機能を分けるための委員会制度の設置が検討されていましたから、上場会社などでは、その先取りとして執行役員制度を導入するところも少なくなかったのです。

 最近では、経営の最高責任者CEOという言い方もされますが、これは、「chief executive officer」 を省略したもので、先にご説明したexecutive officerの中の chief(長)ですから、「代表執行役員」と訳す方が適切です。しかも、経営方針は取締役会で決定されるのであって、CEOが決定するのではありませんから、最高経営責任者と訳すのは正確ではないのです。ただ、実際には、CEO(代表執行役員)が取締役で、代表取締役を兼ねていることがあります。そのような場合には、まさに取締役会で経営方針を決定し、それを執行する権限も有するのですから、名実ともに経営の最高責任者といえますが、それは、CEO(代表執行役員)という地位によるものではないのですね。

次第に執行役員の増え過ぎが問題になってきた

 さあ、これで会社も役員も執行役員も、すべてハッピーになるはずでしたが、そうはなりませんでした。

 取締役を絞って、それまでなら取締役になれた人を取締役にせず、執行役員に任命したので、今度は執行役員が増え過ぎたのです。大人数になれば、当然、その権限の調整などが必要になりますし、取締役の場合以上に、もともとあった先輩・後輩の関係がそのまま持ち込まれますから、例えば、「専務執行役員」「常務執行役員」「上級執行役員」「執行役員」などの階層ができて、自由な議論がしにくくなった上、その執行役員が担当する職務を示すための役職も増やさざるを得なくなり、例えば、「統括本部長」「副統括本部長」など増えてしまい、責任の所在もあいまいになって、迅速で円滑な事業の執行に支障を来すようになったのです。

少数の取締役で的確に執行役員を把握し監督することも困難である

 それだけではありません。執行役員制度を導入した会社では、取締役の数が6、7人、多くても10人以内に絞られました。しかも、そのうち何人かは外部出身の役員であり、会社の経営内容について詳しいわけではありません。

 これに対して、執行役員は、少なくても各事業部門に1、2人は任命され、場合によっては執行役員にポストを用意するために、さらに事業部門が細分化されました。こうして、少数の取締役に対して、細分化された各事業部門に多くの執行役員が任命されたため、執行役員が優秀で腕を振るえば振るうほど、取締役に対して事業現場の生の情報が入りにくくなってしまったのです。

 多くの上場会社では、少数の取締役(特に社内事情を分かっている数人の内部出身の取締役)では、何十人もいる執行役員から適時、適切な報告や説明を受けることすら容易ではなくなり、取締役が会社の実情を把握することが実際問題として難しくなってしまったのです。

しかも執行役員には構造的に株主のコントロールが及びにくい

 結局、特効薬はなかったのです。しかも、これまでに述べてきたとおり、多くの会社の執行役員は、準役員とされてはいても従業員であり、会社法上は何の規律もありませんから、その処遇が難しいことも分かってきました。

 例えば、取締役が経営に失敗した場合には、会社法で、特に理由を示す必要もなく、株主総会の決議で解任することができることになっていますが、執行役員の場合には、ある事業部門の事実上の責任者として事業に失敗しても、その地位は従業員ですから、特に違法・不正な行為として就業規則に触れるような場合でなければ、執行役員の役職を解任することはできますが、従業員の地位を解雇することはできないのが原則です。

 取締役であれば、会社法で会社に対する損害賠償責任が定められており、株主から株主代表訴訟を起こされることもありますし、場合によっては、会社債権者から直接、損害賠償(第三者責任)を請求される可能性もあります。

 これに対して、執行役員は会社法上の役員ではありませんから、株主から株主代表訴訟や第三者責任を追及されることはありません。株主からみれば、取締役は株主総会で選任や解任をすることができ、直接のコントロールが及ぶのに、執行役員には直接のコントロールが及ばないということになります。

 このように、執行役員という制度は、本来は、会社にとっても、執行役員にとっても、使いやすい便利な制度であったはずなのですが、実際には、「大きな権限に小さな責任」という結果になってしまいました。会社のガバナンス(企業統治)という観点からも大いに問題があるのではないか、との指摘を受けるようになったのです。

 

あなたにおススメの記事

あわせて読みたい

関連記事

スポーツ

ビジネス

地域

政治・国際

株式会社共同通信社