【会社法入門講座③】「執行役員」は「役員」じゃないの?

 今年は暑い夏で災害も続きましたが、すっかり肌寒い季節になってしまいました。一時は2万4000円に届いた日経平均株価(225種)も、米中の貿易摩擦や米国での金利引き上げ、ヨーロッパ市場での不安材料などの影響を受けて、執筆時点では2万2000円台を割り込んでしまいました。上場会社の経営幹部の方たちにとっては、今後の株価の動向に目が離せない展開になっています。

 ところで、私たちは、会社の経営幹部になった方たちについて、「〇〇さんは役員になった」とか、「△△さんが執行役員になったそうだね」などと言いますが、「役員」と「執行役員」とは同じなのでしょうか、それとも何か違いがあるのでしょうか。また、最近では、「執行役」という耳慣れない言葉も聞かれるようになりました。紛らわしいですね。

 そこで、今回は、「役員」と「執行役員」との違い、そして、「執行役」という新しい役職などについて、できるだけ分かりやすくお話したいと思います。今回も、特に断わりがない限り、株式会社を「会社」、株式を「株」といいますので、そのつもりでお読みください。

役員というのは、正式には誰を指すのか?

 まず、多くの会社で「役員」と呼ばれている役職は、正式には、どのような地位にある人を指すのでしょうか。「何が『正式には』なの? 例えば、「社長」とか、会社が役員と認めている人が役員でしょう?」と聞き返される方もおいでかもしれません。

 確かに、ある程度の規模の会社であれば、個別に「役員」の範囲について定款(ていかん)で定めており、「会長」「社長」「副社長」などさまざまな役職を内規で定めているのが普通です。

 しかし、ここで今、「正式には」としたのは、日本国内であれば、どこに出ても「役員」として通用するのはどのような地位の人なのか、ということなのです。

 前回も触れたとおり、日本では、「会社法」という法律が、会社の種類や株式、株主の権利、株主総会や取締役などの会社の機関、会社関係の訴訟などについてさまざまな定めをしています。会社法で定めているところは強行規定と理解されていますから、会社法において、各会社の定款で会社法の規定と異なる定めをすることを許容している場合でない限り、仮に各会社の定款や内規でこれと異なる定めをしても、外部に対しては効力が認められません。従って、日本国内のどこに出ても通用する「役員」というためには、会社法が「役員」として定めている範囲の地位かどうかかが基準になります。

 会社法を見てみると、「役員」とは「取締役、会計参与及び監査役をいう。」と定義しています。したがって、正式に「役員」と呼ぶことができるのは、「取締役」「会計参与」「監査役」の地位に就いている人だけということになります。

 「それじゃあ『会長』『社長』『副社長』などは役員じゃないの」という疑問が出てきそうですね。確かに、会社法では会長や社長、副社長を「役員」とする規定はありませんから、会社の定款や内規で会長や社長や副社長という名称で呼ばれていても、それだけでは正式な役員ではありません。ただ実際には、「会長」「社長」「副社長」などの役職にある人は、通常、取締役に選任され、取締役という身分を持っていますから、その意味で「役員」なのです。

 ちなみに、会社法では、「社長」や「副社長」という言葉が全く出てこないわけではありません。条文では、表見代表取締役の責任について「株式会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、善意の第三者に対してその責任を負う」と定められたところに出てきます。

 これは、会社から社長や副社長という名称を与えられている取締役は、会社を代表する権限を有するのが普通なので、仮に本当は代表する権限がなく代表取締役ではなかったとしても、相手方において会社を代表する権限がないことを知らなかった場合には、会社はその責任を負わなければならないとして、取引の安全を優先させたものです。実際の裁判でも、いわゆる平(ひら)の取締役に「会長」の名称を与えていた場合に、この表見代表取締役に当たる、とされた例がありますので、注意が必要です。

役員のうち取締役と監査役は個人に限られるが、会計参与は法人でもなれる

 ところで、取締役と監査役は役員として一般的になじみのある言葉ですが、会計参与というポストは、あまり聞き慣れないかもしれませんね。

 この会計参与というのは、取締役と共同して会社の計算書類(貸借対照表や損益計算書など)やその附属明細書などを作成することを任務とする役員ですが、会計参与に就任することができるのは、会社法によって公認会計士、監査法人、税理士、税理士法人に制限されています。

 やや細かな話になりますが、日本では、取締役と監査役については、法人がなることはできず、個人に限られています。これに対して、会計参与については、会社の計算書類などを作成するという専門性があり、大規模な会社では、個人の公認会計士や税理士だけで会社の1年間の経済活動を総括する計算書類などを作成することは、実際問題として困難ですし、効率的ではありませんから、その資格を有する専門家集団である監査法人や税理士法人という法人が就任することも認められているのです。

役員は株主総会で選任され、会社の経営を委任されている

 これらの役員、すなわち、取締役、監査役、会計参与は、会社の経営に参画する重要なポストですから、会社法では、会社の最高の意思決定機関とされている株主総会において、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主の出席を前提として、その過半数の賛成で選任されることになっています。

 そして、これらの役員と会社との法律関係は、会社を委任者、役員を受任者とする委任関係に関する規定に従うとされていますから、取締役などの役員は、会社に対して民法の委任契約における善良な管理者としての注意義務、いわゆる「善管(ぜんかん)注意義務」を負うことになります。

 特に取締役は、会社の経営方針を決定した上、その業務を執行するなどして、経営上の責任を持つと同時に、お互いに会社に対して善管注意義務を尽くしているかどうかなどを監視することが必要です。このような義務を怠った場合、役員は会社に対して損害賠償義務を負うものとされており、仮に会社が義務を怠った役員に対して何も請求しない場合には、株主が会社のために直接、役員に対して株主代表訴訟を提起し、会社に対して損害賠償を支払うよう請求することができます。

 しかも、役員については、株主総会で、理由を問わずに(役員に落ち度がなくても)いつでも解任することができます。ただし、役員に落ち度がないのに解任された場合には、本来の任期中の報酬を請求することができます。

役員には報酬が支払われ、従業員には賃金が支払われる

 このように、取締役や監査役、会計参与という役員は、会社から委任された経営者、経営陣ですから、会社と雇用関係で働いている一般の従業員とは異なります。従業員(労働者)には労働の対価として「賃金」が支払われ、労働基準法などで現金払いや時間外割増賃金の支払いなど厳格な規律もあり、いわゆる労災保険も適用になります。

 しかし、役員については、従業員(労働者)ではありませんから、賃金ではなく、委任事務処理に対する「報酬」が支払われます。時間外割増賃金などはありませんし、労働者を対象とする労災保険も適用になりません。

 もっとも、日本の多くの会社では、従業員(いわゆる一般社員)の中から管理職を経て、選抜され、いわばサラリーマンの最終的な出世ポストとして取締役や監査役という役員に就任するというのが一般的ですから、〇〇部長や△△支店長などという幹部従業員としての地位と、役員としての地位とが連続しているかのように受け取られているのが実情かもしれません。

 ただ、理屈をいえば、役員に就任するときには、いったん従業員を退職して、新たに会社と任期付きの委任契約を締結することになります。実際には、役員になった後も、それまでの従業員としての地位をそのまま兼務する場合も少なくありません。

 仮に、東京支店長という役職の人が、そのまま取締役に昇進した場合には、どのような肩書になるのでしょうか。東京支店長という立場と取締役という立場を比較してみると、「東京支店長」というのは従業員でもなれる役職であるのに対して、「取締役」は株主総会で選任された「役員」であり、地位が上ですから、取締役を先にして、「取締役東京支店長」と書くのが一般的です。

 

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