【コラム】巨大企業の支配はインターネットを幸せにするか?

 GAFAは巨大な力を持っている。言わずと知れたグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンのことだ。小さな国家を軽く凌駕(りょうが)する資金力、影響力、支配力は各所で観察することができる。

 例えば、ウェブ通信の常時暗号化。インターネットは盗聴に対して脆弱(ぜいじゃく)な共有ネットワークであり、そこで通信を行う場合の暗号化の必要性は、黎明(れいめい)期から喧伝(けんでん)されていた。日本でも、総務省や経産省が啓蒙活動を行っていた。でも、進まなかったのだ。

 ところがグーグルがその状況を劇的に変えた。グーグルは自らが開発し配布するブラウザー「クローム」の仕様を変更した。暗号化されていない通信を「保護されていない通信」として、警告を発するのだ。

 クロームは最大のシェアを持つブラウザーである。ウェブにアクセスするとき、そのプラットフォームがパソコンであれスマートフォンであれ、過半数の人がこのアプリケーションを使う。そのクロームが非暗号化通信を「保護されていない通信」として、いちいち警告してくるインパクトは強烈だ。多くの企業が、面倒で先延ばしにしていたサーバー証明書の取得や、暗号化通信への対応、それに付随して発生するハードウエアの更新などを行うだろう。

 これまで、鶴の一声で企業地図を塗り替えてきた中央省庁がこの問題について何のプレゼンスも持ち得なかったばかりか、自分のホームページを警告される屈辱を味わった。

総務省のホームページ(2018/10/20現在)
経産省のホームページ(2018/10/20現在)

 中央省庁は今でも、インターネットを管理し得ると考えているし、インターネットをより良い状態へ導くための議論や施策を続けている。しかし、その実行力、実効性において、GAFAの足元にも及ばないことを、図らずも露呈してしまった。

 いまや鶴の一声によって、インターネットの構造をいじるのは、GAFAに代表されるテックジャイアントなのだ。

 もちろん、常時暗号化自体に反対なわけではない。すでに日常生活に欠かせないインフラとなっているインターネットを安全にしてくれるのであれば、その主体は何でも良いと考えることもできるだろう。

 グーグルだって、“Do the Right Thing”という立派な理念を持っているし、GAFA同士の相互牽制(けんせい)もある。しかし、一営利企業の戦略一つで、インターネットの根幹が書き換えられていくのは、やはり違和感を禁じ得ない。

 その意思決定のプロセスがつまびらかにされることはなく、グーグルがインターネットを将来どの方向へ導こうとするかの議論に参加することもできない。

 最も恐ろしいのは、私たちがこうした状況に飼い慣らされ、自らの社会システムに関する考察や議論をやめてしまうことだ。「グーグル先生のお陰でずいぶん便利になった。私たちが選んだ代表者がつくる国のシステムなどより、よっぽどいい。だから、もうグーグル先生に任せておこう」というのは、選択ではなく自己決定の放棄である。自分で決めることをやめてしまったら、後はどの方向へ導かれても文句は言えない。

 例えば、ウェブ通信常時暗号化と言われると、なんだか安全になった気がする。でも、それは「ファクスが安全」と言っているのとほぼ同じ意味だ。確かにファクスは安全な通信手段だが、ファクスを受信した企業や人がけっこう雑にファクスを扱っているケースもあることを、私たちは経験から知っている。ウェブの通信も一緒だ。送受信する部分がいくら安全でも、受け取った人がぞんざいにデータを扱えば、ちっともそのデータは安全ではない。「安全だよ」とささやいてくれる誰かに依存して、頼り切ってしまうことほど不安なことはない。

 最終的にグーグルのサービスや製品を受け入れるにしても、自分の頭で考えて評価するワンステップは必ず残しておく必要があると思うのだ。

【筆者略歴】

岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部開設準備室副室長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ビッグデータの罠」(新潮社)など。

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