【コラム】あっという間の子ども囲碁教室

 今年4月から、長野県安曇野市の囲碁普及ボランティアのみなさんが「子供囲碁教室」を始めました。ご縁のある方が、囲碁教室の幹事だったことから指導を頼まれ、4月と7月の2回、安曇野市にお邪魔しました。

 新宿駅から豊科駅まで特急「あずさ」で、3時間12分。囲碁教室は安曇野市内の歴史あるお寺「法蔵寺」で行われました。1789年に造られた山門が立派で、そこから参道が続きます。鐘楼門の右手に阿形像、左手に吽形像がにらみを利かせています。囲碁教室はこのお寺で、生徒20人を対象に、毎週土曜日午後2〜4時に行われています。

 4月に伺った時は生徒の付き添いのご家族にも参加していただき、お寺の本堂で碁の歴史、世界の囲碁事情などをお話しました。その後、足付きの碁盤に正座して小学校の県代表の少年と模範対局を行いました。対局後、天井の高い大きな和室に移り、初心者のために、まず囲碁のマナーとルールをレクチャーしました。参加者全員で打つ連碁(参加者全員が一手ずつ打つ)を解説しながら打っていると、あっという間に2時間がたっていました。

小学校の県代表の少年(中央)と模範対局をする筆者(右)

 2度目の訪問となった7月、安曇野は猛暑でした。ただ、お寺の本堂は開け放され、窓から入り込んでくる風と扇風機の風だけで、ほどほどの涼しさが感じられました。やはり、天井が高いと、室温は暑く感じられないことを実感しました。

 およそ4カ月ぶりに会う生徒たちは、だいぶ碁が打てるようになっていました。今回は各自の棋力を知るために直接対局しました。生徒は、ほとんどが小、中学生です。その中で特に元気がいい男の子が3人いました。少し碁を打つと、広い本堂を駆け回っています。女子たちのグループを教えた後に、苦戦しているボランティアのおじいちゃま先生に交代していただき、わんぱく坊主3人の指導に回りました。実は私は年子3人の弟と育ったので、わんぱく坊主の扱いには慣れています。

 慣れているというより、元気な子どもたちが大好きで、東京にはない自然が豊かな場所で育っている子どもたちのエネルギーを感じて、うれしくなっていました。

 まず、子どもたちの名前を聞いて、「○○君!」と名前で呼びます。そして共通の話題を探すのが第一歩です。

 筆者「みんなは、同じ学校? 何年生?」

 少年たち、声をそろえて「3年生、9歳!」

 筆者「この辺はホタルがいるの?」

 少年A「ホタルを2匹飼ってるよ!」

 少年B「ボクは3匹だよ!」

 筆者「エ〜〜飼ってるの!!!」

 少年C「ボクの家はコイがいるよ。コイは長生きだから100年先まで飼うんだよ」

 筆者「エ〜、100年先まで、考えているんだ!」

 そんなやりとりをした後で、

 筆者「では〜碁を始めますよ!お願いします!」

 少年たち「お願いしま〜す」

 5分もしないうちにまた走り出す少年Aとそれに続く少年B、静かに打ち続ける少年C。

 戻ってきた少年AとBに対し、私「お帰り!」「ここが危ないよ!」

 少年たち「守れ!!守れ!!取っちゃえ!!」

子供囲碁教室の様子

 碁が終局すると「地」を数えます。今度は数学の時間です。整地(陣地を数えやすいように整える)をしながら「かけ算と足し算と引き算」をします。この簡単な作業は初心者の大人でも対局後は難しくなるようです。慣れない碁を打った後は脳が疲労するらしく、簡単な暗算のスピードが遅くなる傾向があるようです。

 また碁盤は19路×19路の線が交わる点が打つ所です。その盤上にある印を「星」と呼びます。その星の位置は、端から数えて10番目にあり、計算する時に、とても便利にできています。

 この少年たち、対局は、まだ初心者ですが、局後にiPadで出した問題に対する集中力と理解力は既に中級でした。

 それを見たボランティアのアマチュアの指導者たちは、かなり驚かれていました。ここが、大人と子どもの上達、理解度の違いでしょうか。子どもたちは、ジグソーパズルが急に景色をつくるように、理解していきます。たぶん、一つ一つのピースの違いを素直に受け止め、見ることができる能力があるからだと思います。大人になると、それまでに培った知識で振るいをかけるようで、新しい物に対して反応が遅くなるようです。

 2時間の教室を終え、生まれ故郷の長野県松本市へ向かいました。夕日が当たる松本城の周囲を散策しました。観光客もまばらな時間でしたが、お城が堂々と見える、良い時間帯でした。

 囲碁教室でのパワフルな子どもたちの姿と、静寂な松本城は対照的な光景でしたが、生まれ故郷は「落ち着く」としみじみ感じました。

夕日に映える松本城

【筆者略歴】

小林千寿(こばやし・ちず) 日本棋院六段。1954年長野県松本市出身。故木谷實九段門下。72年入段。76年と77年に棋道賞女流賞を受賞。2000年に通算300勝達成。女流タイトル6回獲得。日本棋院の前常務理事。

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