【会社法入門講座②】株主総会のお土産と株主優待

 東京は猛暑で毎日熱風が吹いています。その一方で、西日本の各地で集中豪雨や台風などによる大災害が起きてしまいました。心が痛みます。本講座をお読みいただいている皆様のところではいかがでしょうか。

 さて、今回は、株主総会のつながりで、株主総会に出席した株主に対して配られる「お土産」や、テレビなどでも話題になっている「株主優待」を取り上げます。お土産や株主優待という制度は、会社法の観点から見た場合、どのような問題があるのかについてお話ししたいと思います。今回も株式会社を「会社」と略称し、株式は「株」ということもありますので、そのつもりでお読みください。

株主総会のお土産とは何か?

 まず、株主総会の「お土産」というものをご存じでしょうか。株主総会に関係のある方はお分かりだと思いますが、「『株主優待』というのは聞いたことがあるけれど、お土産まであるの?」と驚かれる方もおいでかもしれません。日本のある程度の規模の会社では、株主が株主総会に出席すると、その持ち株数に関係なく1人(1社)に1個ずつ、あらかじめ会社が用意した粗品などが配られることがあります。一般的には、株主総会に出席してもらった株主への「お土産」と呼ばれており、個人株主の中には、このお土産を楽しみに株主総会に出席する人も少なくないといわれています(個人株主に対して、会社や団体などの法人が株式を保有している場合を法人株主といいます)。

 お土産をもらう立場からいえば、忙しいのにわざわざ株主総会に出席したのだから、多少の粗品くらい出るのは当然ではないかということになります。しかし、理屈をいえば、株主がその会社の株主総会に出席するのは当然のことではないか、当然のことをしただけなのに粗品を配るという発想自体が筋違いではないか、という反論があるかもしれません。実は、株主総会に出席した株主にお土産を配るということは、外国ではあまり例がなく、日本の会社に特有のものだといわれています。グローバル化を目指す現在の会社法という観点から考えると、日本のローカル・ルールであるお土産の習慣には問題があるという指摘が出てくることは、容易に想像できます。それでは、論より証拠ですから、早速、お土産の実情を見ておきましょう。

お土産を出している会社はどれくらい?

 まず、どのくらいの数の会社で、株主総会に出席した株主に対してお土産が配られているのでしょうか。また、そのお土産の具体的な内容はどのようなものなのでしょうか。全体を調査した資料はないのですが、上場会社、すなわち、株式を証券取引所で売買できる会社の株主総会については、毎年、商事法務研究会という公益社団法人が株主総会後にアンケートを実施して、その結果が「商事法務」という雑誌で公表されているので、これを参考にしてお土産の実情を見てみましょう。

 このアンケートは、国内の上場会社のうち2621社に対して昨年6月30日までの1年間に開催した株主総会の実情について調査したものですが、そのうち1730社がお土産の有無について回答しています。そして、そのうち約7割の会社がお土産を出しており、残りの約3割の会社は出していないと回答しています(このアンケートは複数回答を認めているため厳密な数は確定できません)。

 具体的にもう少し詳しく見てみましょう。

 まず会社の規模との関係ですが、上場会社としては規模の小さな、資本金額が5億円未満の会社では、お土産を出しているのは約55%で、残りの約45%の会社はお土産を出していません。会社の規模が大きくなればなるほどお土産を出す会社が増えるのかというと、必ずしもそうではありません。資本金額が1000億円を超える日本を代表するような会社では、約51%がお土産を出していません。ちょっと意外な感じがしますね。このアンケート結果では、資本金額が5億円以上1000億円以下の会社は70%以上がお土産を出しており、特に資本金額が100億円を超えて300億円以下の会社は、80%以上が出しています。上場会社の中では中堅クラスの会社がお土産について気を使っていることが分かります。

 なぜ、資本金額が1000億円を超える会社がお土産を出していないのかは、後で触れるとして、お土産の内容について見てみましょう。

お土産の内容はどのようなものか?

 お土産として最も多いのは「飲食品・菓子類・調味料」で、約6割を占めています。その他はバラバラで、「タオル・ハンカチなど」「優待券・ギフトカード」「文房具など」「食器・台所用品など」「せっけん・洗剤など」「プリペイドカードなど」が配られています。かさばる物や生ものなどは株主に喜ばれないので、持ち帰りやすい物が主流になっているようです。

 では、このようなお土産の値段はどれくらいでしょうか。任意のアンケートに答えたもので、バイアスがあるかもしれませんが、一応、500円以下というのは約4%と少なく、500円を超えて1000円以下が約38%、1000円を超えて1500円以下が約30%、1500円を超えて2000円以下が約15%、2000円を超えて3000円以下が約7%、3000円を超えるものは約4%という状況です。500円以下や、逆に3000円を超えるものは極めて少数で、金額的には、500円から1500円までのお土産が約7割を占めています。ちなみに、このアンケートでの最高金額は8000円とされていますが、数年前には、数万円の商品券が配られた例もあったようなので、徐々に金額は下がってきています。

 実は、私もここ数年、複数の会社の株主総会に出席して、いくつかお土産をもらいました。私は長年裁判官だったので、現役時代は中立・公正を保つために特定の会社の株主になるべきではないと先輩に教えられ、そうしてきました。しかし、定年になってロースクールで会社法演習の授業を担当し、株主総会に関する規律も教えているのに、その実情を知らないのでは話にならないと思い、業種や規模などを変えて数社ずつ株式を購入し、その株主総会に出席して実際の様子をウオッチングしています。

 ある商社のお土産は、東日本大震災の復興支援の一環ということで、三陸地方の海産物の詰め合わせでした。よく考えているなぁ、さすがに商社は活動の幅が広いなぁと、妙なところで感心しました。観光業を営むある会社のお土産は、経営している観光ホテルで販売しているまさにお土産用のお菓子でした。また、ある会社では、系列店で使えるプリペイドカード2000円分でした。プリペイドカード以外は正確な値段は分かりませんが、多分、500円から1500円程度ではないかと思います。

 このようなお土産は、株主総会に出席した株主1人(1社)に1個ずつ配られ、出席した個人株主には喜ばれています。半面、持ち株数が多い株主にもお土産は1個だけで、株主総会に出席しなかった株主には配られないので、不公平ではないかという意見も出てきます。

お土産と株主優待、何が違うのか?

 また、このようなお土産に似て非なるものに、株主優待制度があります。株主優待は、株主総会に出席したかどうかに関係なく、会社が定めた一定の日(基準日)に一定数以上の株式(通常は100株以上)を所有してさえいれば、会社が定めた一定内容の優待を自動的に受けることができます。そして、優待を目当てに株式を購入したり、長期保有したりする個人株主も少なくないので、どのような優待があるのかを特集した雑誌やテレビでよく取り上げられています。優待のある会社の株主となってゲットした株主優待券を利用するために自転車に乗って全力疾走する姿で人気になった方もいるので、皆さんも大体ご存じだと思います。もちろん、株主優待は、株式を上場しているすべての会社が行っているわけではありません。ある証券会社の調査では、全上場会社のうち約1360社が株主優待制度を行っているようです。

 株主優待の内容はさまざまです。例えば、スーパーマーケットを営む会社は買い物金額の3%のキャシュバックを受けられる株主優待カード、多くの食品会社は自社製品の詰め合わせセット、航空会社は搭乗割引券、外食産業は食事優待券や割引券、自社製品がない会社はクオカードや商品券などを、株主優待として配っています。

 また、上場会社は、証券会社を通じて株式を購入する際に一定数の取引単位(100株か1000株)が定められており、その取引単位以下では株式を購入できないため、取引単位を最低基準として、それ以上は何段階かに分け、上限を設けて、グレードアップした異なる内容の優待があるのが一般的です。例えば、ある外食産業は、株式数100~499株の株主には食事割引券5枚、500~999株の株主には食事割引券10枚、1000株以上の株主には1000株ごとに無料食事券5枚+食事割引券5枚(上限は各25枚)というように、必ずしも持ち株数に比例して配っているわけではありません。

 私が株を買った会社はどうかというと、株主総会の様子をウオッチングすることを念頭に会社の業種や規模などを変えて購入し、株主優待の内容を考えていなかったので、多くは株主優待のない会社でした。私の手元に届いた株主優待は、系列のホテルチェーンの利用割引券(10%引き)などで、これらの割引券を使うには新たに高額の出費をしないといけないため、残念ながらその恩恵にあずかるのは難しそうです。

お土産や株主優待に反対する意見

 このように、株主総会のお土産や株主優待は、それなりの数の会社で行われている一方、お土産や株主優待がない会社も少なくありません。お土産も株主優待も、個人株主には喜ばれているので、もっと多くの会社で行ってもよさそうですが、実際にはそうでもありません。

 理由の一つは、会社にとって、お土産や株主優待を株主に配るのには手間や費用がかかるということがあります。例えば、株主総会のお土産は、株主が何人出席するかを予想して、少し多めの数を準備しなければならず、株主総会の会場で1人に1個ずつ渡すためには担当者を相当数配置する必要があります。また、株主優待であれば、優待の対象となる基準日の株主の住所・氏名やその保有株式数を把握した上、それに応じた優待を送る作業が必要です。もっとも、実際は、各会社が直接その作業などを行っているわけではありません。上場会社は、株式振替制度の下で株主名簿の管理や株主総会招集通知の発送などを信託銀行などに委託しており、そのために委託費用を支払っているのが実情です。したがって、お土産や株主優待をやめれば、一定の経費がかからなくなり、多少は利益が増加することは間違いありません。

 もう一つの大きな理由は、法人株主、すなわち、他社の株式を保有している会社や、海外や国内の投資ファンド、生命保険会社、銀行のほか、年金などの資金の運用を委託されている信託会社などが、お土産や株主優待は実質的に意味がないとして、否定的だからです。では、なぜ、法人株主が否定的なことが問題なのでしょうか。

頭数では個人株主、株式保有比率は法人株主が大多数

 実は、日本の会社の株主構成が重大な影響を及ぼしています。日本取引所グループの調査によれば、日本の全株主数は、個人と法人とを合わせて、延べ約5272万人と膨大な数に上ります。そのうち97%(5129万人)が個人株主で、法人株主などはわずか3%にすぎません。もっとも、これは、1人(1社)が仮に5社の株式を保有していれば5人(5社)と数えた数字であり、日本国民のうち5000万人以上が株主になっているということではありません。このように、株主の頭数では個人株主が圧倒的ですが、株式の保有比率で見ると、個人株主の保有はわずか17.0%です。これに対して、外国法人などの保有は30.2%、資金の運用を委託されている信託会社の保有は20.4%、事業法人の保有は21.8%、合計72.4%(その他が10.6%)で、個人株主の4倍以上になっています。

 つまり、個人株主は、数は多いけれど株式の保有比率が少なく、保有比率では法人株主が3分の2を超えています。この3分の2を超えていることが大きなポイントです。なぜなら、会社法では、株主総会の議案で株主の利害に深く関係する事項については株主総会の特別決議が必要で、議決権を有する株主の議決権の過半数を有する株主が出席して(代理や書面による議決権の行使も含む)、その議決権の3分の2以上の賛成が要件とされています。全体として法人株主の議決権が3分の2を超えており、例外的にいわゆる創業家などの個人株主が株式の多くを支配しているような場合を除いて、株主総会に出席した個人株主が全員賛成しても、法人株主が反対すれば議案は否決され、逆に、個人株主が全員反対しても、法人株主が賛成すれば議案は可決されてしまいます。株主総会の決議の成否は、実際には、会社による有力な法人株主に対する事前の説明や根回しで大勢が決しており、個人株主の賛否はほとんど影響しません。会社にとって大事なのは法人株主の意向です。ところが、株主に配られるお土産は、個人的に使用する粗品程度のもので、法人株主には意味がありません。

 また、株主優待も、若干の経済的利益を伴うのが普通ですが、外国からわずかの株主優待を利用するためにわざわざ日本まで来ることは費用の無駄なので、考えられません。国内の法人の場合も、現在は公私混同が禁止されており、担当者が個人的に株主優待を利用することはほとんどありません。換金性のある優待券などであれば、金券ショップで換金することもあるようですが、手間がかかる上に、換金の際に何割か引かれてしまうので、法人にとってメリットはないのです。会社が株主に対して何か配るのであれば、お土産や株主優待という中途半端なものではなく、きちんとした「配当」として現金でもらいたいというのが法人株主の本音です。そのような法人株主の意向に沿って、お土産や株主優待を行っていない会社も少なくありません。

お土産や株主優待は株主平等原則に違反するか

 お土産や株主優待には、株式の多くを保有する法人株主などの反対がありますが、会社法という規律から見ても、株主平等原則に違反しているのではないかなど、いくつか問題があります。

 会社法は、「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない」と定めており、株主平等原則と呼ばれていますが、わざわざ「その有する株式の内容及び数に応じて」とあるように、会社法が求めているのは、同じ内容(種類)の株式であれば、株主が保有する株式数に比例した平等で、厳密にいえば、株主総会に出席したか否かにかかわらず、各株主の保有株式数に応じた適切なものを配ることが必要になるはずです。

 実際のお土産の多くは500円から1500円くらいの金額のもので、多額ではありませんが、経済的な価値があります。会社が株主に配るのであれば、株主総会に出席したか否かにかかわらず、株主全員に配るのが筋であり、出席株主だけに配るのは株主平等原則違反であるという指摘が出てきます。しかも、出席株主だけを考えても、各株主の保有株式数にかかわらず、同じものを1人に1個ずつというのは、その株式数に応じた扱いではないので、この意味でも株主平等原則に違反しているということになります。

 また、株主優待は、一応、全株主を対象として行われますが、株主の保有株式数を何段階かに分けた上、一定の上限を設けて、優待券などを与えるもので、海外に居住している株主には送付されない扱いも少なくないようです。このような株主優待の投資金額に対するコストパフォーマンスを考えてみると、段階制や上限制などによって、優待の対象となる最少の株式数を保有している株主のコストパフォーマンスが最も良く、所有株式数が増えるほどコストパフォーマンスが悪くなることになります。結局、株主優待という制度も、各株主の保有株式数に比例した取り扱いをしていないので、やはり株主平等原則に違反するとの批判を避けることはできません。「株主平等原則って、そんな面倒くさい意味なの?」という声が聞こえてきそうですね。

粗品であれば株主平等原則に違反しない

 会社法は、そもそも内容の異なる種類の株式の発行を認めていることからも明らかなように、形式的には株主間の平等に反するように見える事柄であっても、株主間の実質的な平等が損なわれない範囲内のものであれば、許容していると考えられます。しかも、会社法は、上場会社のような会社の経営については経営陣に幅広い裁量を認めています。経営陣が経営の一環として会社のために有益であると考えて採用し実施している事項であって、その方法が社会常識的に相当で、実施内容も一定の合理的な範囲内のものであれば、会社法に違反するものではないといえるでしょう。

 そもそも株主総会に出席した株主に会社から粗品が配られるようになった確実な理由は分かりませんが、一般的には、わざわざ株主総会に足を運んでくれた株主に心ばかりの粗品を渡して、感謝の気持ちを伝えたいということから始まったといわれています。そして、現在もお土産が続いているのは、日本では株主の約97%が個人株主であり、お土産は、そのような個人株主が株主総会に出席しようという誘因になっているからです。実際に、お土産を廃止した会社は株主総会への出席者が減少し、お土産を再開したら出席者が回復したことが分かっています。個人株主に株主総会に対する興味を持ってもらい、長期保有の安定株主になってもらうきっかけになると考えれば、出席株主にお土産として粗品を渡すことは会社のために有益なものと考えられます。

 また、お土産には、出席するために生じた経済的負担などの一部弁償の代わりという面も指摘されています。株主が株主総会に出席するには会場まで出掛けなければならないので、往復の交通費がかかるし、時間も使います。少し大きな会社の株主総会であれば、午前10時から始まってお昼近くまでかかることが普通なので、出席すると半日はつぶれてしまうし、外食での余分な出費も必要になります。そこで、出席株主に生じるこのような経済的な負担なども考慮して、その一部を実費弁償する代わりに粗品を渡しているという理由です。

 出席しない株主にはそのような経済的負担は発生しないので、負担が生じた出席株主にだけ一定の粗品を渡すことは、むしろ実質的な平等を回復することになり、株主平等原則に違反するものではないと考えるわけです。もっとも、そのように考える場合でも、社会的に不相当な品や実費弁償の趣旨を超える高額のものである場合には、上記の趣旨に反するので、やはり株主平等原則に違反する疑いがあります。

 そこで、実際に渡されているお土産の内容や金額を再検討してみると、「飲食品・菓子類・調味料」「タオル・ハンカチなど」「食器・台所用品など」「せっけん・洗剤など」は、その内容が社会一般でも粗品として授受され、金額も500円から1500円程度までであれば、社会通念上も株主総会に出席するための往復の交通費などの実費の一部弁償に代わるものとして合理的な範囲内にあるといえます。これに対して、「ギフトカード」や「プリペイドカード」などは、現金と同じように使え、利用金額が3000円を超えるような場合には、一般的に交通費などの実費の一部弁償に代わるものというには高額です。粗品としての合理的な範囲を超えるものであり、むしろ不当配当とみなされ、株主平等原則に違反すると判断される可能性があるでしょう。

一般的な株主優待であれば株主平等原則に違反しない

 また、株主優待についても同様に、形式的には株主間の平等に反するように見える事柄であっても、実質的な平等に反するものでなければ、会社法は許容していると考えられます。経営陣が会社のために有益と考えて実施し、社会常識的に相当で、合理的な範囲内のものであれば、会社法に違反するものではないといえるでしょう。

 株主優待は、一応、全株主を対象として行われますが、株主の保有株式数を何段階かに分けた上、一定の上限を設けて、一定の時期に優待券などを与える制度です。厳密な意味では「その有する株式の内容及び数に応じて」株主に与えられるものではないため、形式的には株主平等原則に反するように見えます。しかし、ここでも日本は株主の97%が個人株主です。実際に、個人株主にとって、株主優待はその会社の株式を長期に保有する大きな要因の一つで、日本社会に定着した制度になっています。会社から見ても、株主優待は個人株主に日々の株価の値動きに応じて短期で売買をすることを目的としない安定株主になってもらうための有効な手段の一つなのです。したがって、会社が株主優待制度を採用すること自体は相当なものであり、株主平等原則に違反するものではありません。

 問題は、株主優待の段階制や上限制ですが、会社側の具体的な事務手続きなどを考えると、持ち株数が1株増えるごとに異なる内容の優待を与えることは実際問題として不可能です。しかも、株主優待の内容は、自社製品や割引券などの配布がほとんどで、株主優待の実質は、会社のPRという性質が強いものといえるでしょう。優待が自社製品などであれば、会社にとっては原価で済むので大きな負担にはなりません。もらう株主にとっては、通常は製品の消費期限などがあるため、大量にもらっても迷惑だということになりかねません。そのようなことを考慮して、株主の保有株式数に厳密に比例するのではなく、保有株式数を何段階かに分けて、社会常識的に相当な数量の範囲内にとどめることは、一定の相当性、合理性を有するものといえるでしょう。

 仮に優待が割引券などの場合でも、もらった株主の全員が利用するわけではありません。有効期限がある上、割引券を利用するには差額の支払いも必要です。普通であれば、大量にもらっても使い切れないでしょう(余ったから転売するということになると、本来の株主優待の趣旨に反する結果になってしまいます)。また、仮に会社が運営している施設などの無料入場券の場合、入場料は無料でも、入場後に食事をしたり、さまざまなグッズを購入したりして、結果的には売り上げに寄与するので、会社に大きなマイナスが生じることはないといわれています。

 このように考えると、株主の保有株式数を何段階かに分けた上、一定の上限を設けて、一定の時期に株主優待を実施することも、現金や高額のギフトカードなどを配るような場合でなければ、原則として株主平等原則に違反するものではないといえるでしょう。

議決権行使に関する利益供与禁止の面で問題も

 お土産については、もう一点、会社法の観点から問題が指摘されています。この講座の第1回で株主総会における総会屋問題についてお話ししましたが、お土産問題は、そのこととも関係しています。

 現在の会社法は、かつては株主総会に関連して総会屋といわれる人たちが会社の経営陣などに対して不当な金銭や便宜を要求することがあったため、「株式会社は、何人に対しても、権利…の行使に関し、財産上の利益の供与…をしてはならない」と定めています。会社法は、会社が株主を含む誰に対してでも権利の行使に関して財産上の利益を供与することを禁止しており、これに反した取締役などは処罰を受ける可能性があります。

 株主総会に出席する株主は、議決権を行使するため、株主総会に出席する株主にだけ与えられるお土産は、議決権という株主の権利の行使に関して会社から与えられる財産上の利益に当たり、会社法による上記の財産上の利益の供与禁止に抵触して、違法ではないかという問題が出てくるのです。最高裁判所の判断はありませんが、ある株主が会社提案に反対する議案を提出していて、株主総会で会社提案と株主提案とが競合している場合に、会社が有効な議決権の行使を条件として、株主1人当たり500円分のクオカードを交付したケースにおいて、株主の議決権行使に影響を及ぼす恐れがないとはいえないとして、上記の財産上の利益の供与禁止に触れると判断した東京地方裁判所の判例もあります。

 「わずか500円のクオカードで、何て非常識なことを言っているんだ」といわれてしまいそうですね。しかし、会社の役員側から見れば、役員は株主総会で選任されるので、株主総会に出席した株主に少しでも良く思われたいと考えるのは自然なことです。そのため出席株主に高額のお土産を配ったりすることも全くないわけではありません。そのように考えると、高額のお土産は、役員による保身の手段という意味合いが強くなり、議決権の行使に関して会社から与えられる財産上の利益に当たります。会社法に違反するのではないかという疑問は当然のことと思われます。

 もっとも、会社法が会社による財産上の利益の供与を禁止した趣旨は、議決権の行使に関連して不当な財産上の利益が授受されることをやめさせることにあります。その趣旨に反しないもので、社会常識に照らして株主としての議決権の行使に影響を及ぼさないような内容、金額のもので、実質的に交通費などの実費弁償の一部に代わるものなど、合理的な説明ができる範囲内のものあれば、会社法が禁止している不当な財産上の利益の供与には当たらないといえるでしょう。

 したがって、ここでも、「飲食品・菓子類・調味料」「タオル・ハンカチなど」「食器・台所用品など」「せっけん・洗剤など」で、その金額も500円から1500円程度までであれば、社会通念上も株主総会に出席するための往復の交通費などの実費弁償に代わるものとして合理的な範囲内にあるといえるでしょうが、「ギフトカード」や「プリペイドカード」などで、利用金額が3000円を超えるような場合には、客観的に実費弁償に代わる粗品としての合理的な範囲を超えるものとして、会社法が禁止している不当な財産上の利益の供与には当たると判断される可能性もあることになります。

お土産や株主優待を廃止しようとする動きも

 最近は、お土産を廃止しようとする会社も少しずつ増えています。最初に触れたアンケートでも、お土産を出していない会社の理由として、「(出席株主と非出席株主との)平等性を図るため」とか「株主優待を充実させるため」という理由のほか、「世間の動向」「費用対効果」「経費削減」などの理由が示されています。一応もっともな理由ですが、このような理由をそのまま受け取ることは相当ではありません。これまで述べてきたように、会社法上の問題は一定の範囲内にとどめれば何とか回避することができます。実際に多くの会社は現在もお土産を配っているので、決定的な理由にならないことは明らかでしょう。

 また、費用対効果や経費削減なども、十分な理由とはいえません。なぜならば、実際に株主総会に出席する株主の数は、大きな会社でも数百人からぜいぜい1000人程度以下であることがほとんどで、1000人を超える株主が出席するような株主総会は、何か世間で問題になるような出来事などがあった会社だけで、極めて例外的です。そこで、仮に1000人の株主が株主総会に出席して、1人当たり1000円程度のお土産を配ったとしても、必要金額は100万円程度です。お土産を出していない比率が高い資本金額が1000億円を超える会社は、売上額は数千億円以上、税引き前利益額は数百億円以上で、取締役や監査役などの役員や執行役員などが全部で何十人もいて、経営幹部の報酬や給与だけでも10億円を超えるような金額になっているのが普通です。お土産代程度は全く問題になるような金額ではありません。

廃止しようとする会社の本音は?

 お土産が会社にとって大きな負担になることはないはずなのに、会社がお土産を廃止したり、株主優待を行わない本音はどこにあるのでしょうか。実は、これからお土産を廃止しようと考えている会社の検討理由に、その本音の一端が現われています。先のアンケート結果で廃止を検討していると回答した会社は、株主総会への「来場者数を抑えるため」「単元株100株化に伴う来場株主数の予測ができないため」「来場者が増えて会場への入場に支障を来す恐れがあるため」などを理由に、株主総会でのお土産を廃止しようと検討しています。つまり、個人株主に喜ばれるようなお土産を出すと株主総会に出席する株主が増えてしまい、大きな会場の確保や会場整理などが大変なので、あまり来てほしくない、そのためにはお土産を廃止するのが簡単で効果的な方法だということなのです。

 さらにいえば、頭数では個人株主が株主の大部分を占めているものの、株主総会での決議に必要な議決権ベースで見れば法人株主がキャスティングボートを握っています。多くの個人株主が出席しても決議の結果には影響しないのに、質問のときには細かな事柄をいろいろ質問して経営陣を困らせたりするので対応が面倒である、それならあまり来てくれない方がいい、という本音も見え隠れしています。

 これに加えて、先にも述べた通り、株式の多くを保有している法人株主や外国株主からは、お土産や株主優待は意味がないから廃止すべきだとの消極的意見や、大きな金額ではないものの無駄遣いだとの批判があるため、会社の経営陣は、自分の選任・解任を左右する法人株主や外国株主の意向を気にしていることも見てとれます。

 いかがですか。株主総会に出席した株主に配られるお土産や個人株主が喜ぶ株主優待という制度は、個人株主を会社につなぎとめ、株主総会にも興味を持ってもらうために一定の効果が認められる半面、会社法という規律との関係では違法かどうかの微妙な問題が生じていることをお分かりいただけたでしょうか。そして、現在の多くの会社の経営陣は、当然のことながら、国内や海外の大株主である法人株主の意向を重視せざるを得なくなっており、国内の一般株主である個人株主が喜び、安定株主の確保にもつながるお土産や株主優待などのささやかな優遇措置を維持することでさえ、必ずしも簡単ではない経営環境になってきていることもご理解いただけたのではないかと思います。

 日本の将来を考えれば、常に世界に目を向けることが必要ですが、日本と関係の深いアメリカやイギリスなどの動向に合わせればいいというものではありません。現在の会社法の改正や、証券取引所が上場企業に対して定めているガバナンス・コードなどでは、会社の経営陣と株主との対話の促進ということがいわれています。しかし、会社の本音は、できれば個人株主にはあまり文句を言わせないようにして、法人株主や外国株主など株式保有比率の高い有力な株主との対話を重視するという方向への誘導が大きな既定路線のようになっています。株主総会に出席した株主へのお土産や株主優待というローカルな問題が、実は、日本の会社のグローバル化という方向性をどのように考えるべきかという大きな問題ともつながっていることを感じていただければ幸いです。会社法の世界もなかなか奥が深いですね。

 それでは、今回はここまでとさせていただきます。

 ありがとうございました。

【筆者略歴】

須藤典明(すどう・のりあき) 日本大学大学院法務研究科教授。司法研修所教官(民事裁判・第一部)、東京地方裁判所部総括判事、法務省訟務総括審議官、甲府地方・家庭裁判所長、東京高等裁判所部総括判事などを経て、現職。弁護士。

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