地味な主役に世界が注目 ビールの季節、ホップ開発の現場を行く

 黄金色の液体がしゅわしゅわっと喉をくすぐると、やがてやさしい、爽やかな香りが鼻腔(びこう)いっぱいに広がる―。この爽快さを生み出すビールの「魂」、ホップに、いまあらためて注目が集まっている。日本列島を熱波が覆う7月半ば、日本のホップ開発の現場を訪ねた。

 ホップは地味な作物だ。そのまま食べられるわけでもないし、ビールの原料だと知っていても見たことのない人が多いだろう。北海道は十勝連峰の山裾に抱かれる上富良野町を訪ね、そんな地味な主役、ホップの素顔を探った。

フィールドマンが素材吟味

 前日までの寒い日が途切れ、久しぶりの好天。ホップ農家を訪ねた。「ようやく花が咲いたところ。この時期の開花数で収穫が決まってしまう。今年は初夏の気候が不順でやや少なめ。これから収量を確保するためにやることがいっぱいあります」。稲葉彰さん(58)は5メートルほどのホップの棚を見上げながら話してくれた。

 病害虫や天候異変への対応、余分な「つる」の除去など手作業が多く、ホップはとても手間のかかる作物だという。稲葉さんは4ヘクタールの農場で採れるホップを乾燥した後、全量サッポロビールに納めている。

 次に、ホップとビール用大麦の育種・研究に取り組むサッポロビール・バイオ研究開発部北海道原料研究センターを訪ねた。

 富良野、米国、ドイツ、さまざまな産地のホップで醸したビールが並ぶ。口に含むと一般のビールとは違う、個性のある芳香が鼻に抜けていく。大串憲祐センター長は「自社でホップと大麦両方の育種に取り組んでいるビールメーカーは世界でもわが社だけ」と胸をはる。

 同社は素材に徹底してこだわり、12年前からホップと麦のすべてを協働契約栽培で調達している。国内のホップについては現在、北海道、東北で20軒強の農家と栽培契約を結んでいる。

 農家との付き合いは「フィールドマン」が担う。大串さんもその1人。「フィールドマン10人が世界の原料産地を飛び回って農家と話し合い、調達する原料の質の維持向上に取り組んでいる」という。

 「ホップはとても手間のかかる作物」と話す稲葉彰さん=北海道上富良野町

海外で評価「ソラチエース」

 ホップはアサ科の植物で、苦味や香り、ビールを透き通った液体にする働きを担う。日本では明治初期、北海道で野生のホップが見つかり、栽培に適しているとの見立てで本格的な栽培が始まった。

 いま、こうした育種への取り組みが、最近人気のクラフトビールの分野で実を結びつつある。北海道で産声を上げ、世界の醸造家に注目されているソラチエースがそれだ。ソラチエースは1975年、ここサッポロビール上富良野の試験農場で芽生えた。苦味が強く、えぐみが少ないのが特徴だったが、個性の強さから国内での商業デビューは遅れた。99年に育種の権利が切れ、先に海外で栽培が広がる。そこにクラフトビールブームが到来し、がぜん注目されるように。2000年代半ばに米国の醸造家に見初められ、デビューを果たす。かんきつ類、針葉樹、ディル(ハーブの一種)の香りを想起させる個性で、いまでは欧米からアジアまで、世界の醸造家を魅了している。

多様化が課題

 富良野で訪れたもう1軒のホップ農家は、水田を主力とする専業農家の大角友哉さん(43)。「手間のかかるホップは妻と母の手がないとできない。母も体力的にきつくなっているが、人を雇おうにも働き手がいない」と話す。担い手の不足もあり、国内のホップ農家は少しずつ減っている。

 ビールの個性を決定付ける良質のホップの調達にしのぎを削るビール大手各社だが、コストや安定供給の観点から、必要とするホップの大部分を米国、ドイツ、チェコなどからの輸入に頼っているのが実情だ。

 人口が減り、若者を中心としたビール離れが指摘される中で、ひたすら清涼感だけを追い求めてきた横並びの時代は終わりを迎えつつある。これからは原料の個性を生かした多様なビールづくりこそがメーカーの緊急課題となっている。

 しかし、クラフトビールのブームに象徴される消費者ニーズの多様化に、大手メーカーはまだ対応しきれていないようだ。大手各社のクラフトビールやホップの個性を前面に出したビールは地域や期間限定が多く、すぐ手に入りにくいのは残念だ。

 サッポロの海外契約農家の中には、自主的に北海道を訪れる人もいるという。「自分の栽培した麦やホップがどんなビールになったか、飲んでいる人たちの笑顔を見に北海道までやってくるそうです」と掃部晃・北海道工場長。激しいシェア争いの消耗戦から脱却し、ビールの世界はもの作り回帰に向かうのか。独自のフィールドマン制度を導入し、原材料にとことんこだわるサッポロビールの戦略は、一つの答えかもしれない。

(株式会社共同通信社 コンテンツ編集部)

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