【会社法入門講座①】株主総会はなぜ6月下旬に集中しているのか

 会社に勤めている皆さんは、会社の実務について、私よりもいろいろよくご存じだと思います。では、皆さんの会社で採用されているさまざまな制度や行われている行事の理由については、いかがでしょうか。

 もちろん、会社法などの法律を前提として、正確に説明できる方もいらっしゃると思いますが、多くの方は、法的な理由となると、尻込みしてしまう方も少なくないのではないでしょうか。

 本講座では、法律を本格的に勉強したことはないという方を前提に、「会社法」(2005年7月26日法律第86号、06年5月1日から施行)やその関連法令などが定めている会社の基本的な制度や仕組みなどをできるだけ分かりやすく説明して、会社に関するさまざまな出来事や話題について理論的な根拠や実情などを理解していただこうと考えています。読み続けていただくことで、会社の仕組みや実務上の問題点などに関する知識が豊かになり、中堅幹部としてより一層のステップアップに役に立つ一助になれば、と願っております。

株主総会は株式会社だけにある

 既にご存じかもしれませんが、株主総会は株式会社だけにある制度です。一般に会社と呼ばれていても、株式会社ではない会社に株主総会はありません。

 日本の会社には、大きく分けると、「株式会社」とそれ以外の「持分会社」(もちぶんがいしゃ)という二つのタイプがあります。出資者に対して「株式」(一般に「株」と言われているもの)を発行して資本金を集めた会社が「株式会社」で、「株式」という形ではなく、出資者に「持分」を与えて資本金を集めた会社が「持分会社」です。「合名会社(ごうめいがいしゃ)」「合資会社(ごうしがいしゃ)」「合同会社(ごうどうがいしゃ)」が「持分会社」に当たります。

 あれ?「有限会社」はないの、と思われた方もいるかもしれませんね。

 実は、05年に会社法が成立して、有限会社という制度は廃止され、会社法が施行された06年5月1日以降は、新たに有限会社を設立することはできなくなりました。それまでに存在していた有限会社は、定款や登記の変更などをすることなく、名称も「〇〇有限会社」のままで、会社法の適用については株式会社として存続します(このような会社を「特例有限会社」といいます)。いつでも定款を変更して正式に株式会社に変わることが認められているので、数は減りましたが、まだ「有限会社」という看板を街で見掛けることがあります。

 有限会社を新たに設立することはできないので、それに替わる制度として、持分会社の一つとして「合名会社」という制度が新設されました。小規模な会社をつくりたい方は、合名会社を検討するのがいいでしょう。

 株主総会は、その名のとおり、株主の総会であり、株主=株式を保有している人(正確にいえば、一定の基準日に、会社の株主名簿に株主として記載・記録されている人)ですから、株主総会を開催する会社は、株式を発行して株主が存在する会社=株式会社です。これに対して、合名会社、合資会社、合同会社という持分会社では、出資持分を有する社員はそれぞれが業務執行権限を持っているので、株主総会のような制度は必要ないのです。

なぜ6月下旬に集中しているのか

 6月に入って、多くの会社(本稿では、特に断りがない限り、株式会社のことを単に「会社」と呼ぶことにします)で株主総会の時期を迎えていますが、株主総会には、「定時」株主総会と「臨時」株主総会とがあり、通常、6月に開催されるのは定時株主総会です。以下では、特に意味のある場合を除いて、定時株主総会を単に「株主総会」または「総会」として話を進めます。皆さんの中で株をお持ちの方は、会社から株主総会の案内が届いていることと思います。あるいは、会社の担当者として、株主総会の準備に追われている方もいることでしょう。

 今回のテーマは、株主総会が6月下旬に集中している理由ですが、世間では、会社の都合であったり、いわゆる総会屋対策であったり、いくつかいわれているものがあります。会社の都合というのは、まさにそのとおりなのですが、問題は、その会社の都合とは何か、ということです。では、まず、世間でよくいわれる総会屋対策という理由についてみてみましょう。

総会屋対策で集中している?

 かつては、株主総会といえば、いわゆる「総会屋」という人たちが何かと話題になりました。一口に総会屋といっても、さまざまな経歴の人たちがいて千差万別だったのですが、一般的には、複数の会社の株式を少しずつ所有し、その会社の不祥事や役員などのスキャンダルなどをネタにして、株主総会で質問をするなどと脅したり、株主総会において、取締役などの選任に反対したり、大声で長々と威圧的な質問をして総会の議事進行を妨害したりして、会社から金銭や便宜を引き出そうとする人たちを「総会屋」と呼んでいました。

 中には、取締役の責任を追求しようとする一般株主の発言や質問を妨害し、会社のために議事進行を図ることで財産的利益を得る総会屋もいました。一匹オオカミ人もいれば、グループで株主総会に押し掛ける人たちもいましたが、できるだけ多くの株主総会に顔を出してトラブルを起こしたり、大声で威勢を示したりすることが目的ですから、会社はその対応に苦慮していました。

 そのような総会屋対策の一つとして、多くの会社が、株主総会を同じ日に集中して開催することが検討されました。多くの会社が同じ日に株主総会を開催すれば、総会屋と呼ばれる人たちはいくつも出席することができなくなります。したがって会社、特に経営陣からみれば、株主総会で総会屋に悩まされる機会が減るというわけです。しかし、多くの会社から広く浅く金銭などを得ることが難しくなれば、少ない会社から多くの金銭などを得ようとするのは自然の成り行きで、かえって株主総会で先鋭化するという副作用も生じました。

総会屋活動の取り締まりが強化された

 総会屋活動を抑えるためには、株主総会などに関連して、不当な金銭や便宜を要求することはもとより、これに応えて金銭や便宜を提供することをも禁止するのが最も効果的です。現在の会社法では、「株式会社は、何人に対しても、権利…の行使に関し、財産上の利益の供与…をしてはならない」と定められています。会社の経営陣である取締役は、会社のために善良な管理者としての注意義務を尽くすことが求められているし、法令や会社の定款などを順守する義務も負っているので、会社が禁止されていることを行うことはできません。仮に取締役がこれに反して総会屋などに財産上の利益を供与したりすると、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処されます(「不正の請託」があるときは、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金)。

 このように、法律で総会屋だけではなく、不当な理由で財産上の利益を供与した取締役も処罰されることになって、総会屋活動は息の根を止められてしまいました。私もここ数年、いくつかの会社の株主総会に出席して、実際の様子を見るようにしていますが、どの株主総会でも、会社の不祥事や役員などのスキャンダルなどをネタにして威勢を示したり、大声を出して騒いだりするような人はいませんでした。

 現在の株主総会では、実際には、多額の資金を運用して、多くの会社の大株主となっている投資ファンドや年金基金、生命保険会社などの機関投資家が力を持っています。このような機関投資家にとって、株主総会の開催日が同じ日に集中すると、担当者が出席しにくいことや、事前に対象会社の計算書類(貸借対照表や損益計算書など)を十分にチェックすることが難しくなることから、株主総会が6月下旬に集中することが問題視されているのが実情です。

 それにもかかわらず、現在も株主総会が6月下旬に集中しているのは、それとは別の事情があるからです。

事業年度が終了したら株主総会を開かなければならない

 会社は、株主の出資を元手にスタートし、営利の事業活動を行っているのですから、定期的に株主に対して会社の事業活動や財産状況などを報告するべきです。このため、会社法では、「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」と定められています。多くの会社の事業年度は、国や地方自治体の会計年度に合わせて、4月1日から翌年の3月31日までと定められていますから、3月31日の事業年度の終了後である4月以降に定時株主総会を開くことになるのです。しかし、会社法では「毎事業年度の終了後一定の時期」でいいとしているのですから、株主総会の開催時期は4月以降、5月、6月、7月、8月…と、もっとばらけていいはずなのに、なぜ、6月下旬に集中しているのかという疑問は残ったままです。

株主総会に出席してもらう株主は誰がいいのか

 その理由を探るためには、6月下旬に開催される株主総会が何のために開かれるのかを理解することが必要です。定時株主総会は、過去1年間の会社の事業年度(例えば、前年4月1日からその年の3月31日まで)が終わった後に、株主に対して、会社の1年間の事業活動状況や、その収支の決算状況、事業年度最終日(3月31日)現在の財産状況などを報告するとともに、株主総会の決議事項とされた事柄(例えば剰余金の配当や取締役など役員の選任)について決議することを目的として開催されるものです(計算書類などの承認は、取締役会と会計監査人が設置されている会社では、取締役会の承認で確定させることができるので、株主総会での決議は必要ありません)。

 ところが、株式を公開している会社、特に上場会社では、常に株の売り買いが行われており、日々、株主の一部は変動しているので、いつの時点の株主に集まってもらって、上記を報告し、決議してもらうのがいいのか、という問題が生じます。原則論としては、定時株主総会では、株主に対し、終了した事業年度の結果を報告し、終了した事業年度に生み出した純利益などを原資として1株当たりの剰余金の配当をいくらにするかを決議してもらうのですから、対象の事業年度の最終日(この例ではその年の3月31日)現在の株主に集まってもらって報告し決議するのが、制度に整合的だと考えられます。

基準日株主とは何か

 このことに関連して、会社法では、「基準日株主」という制度が設けられています。会社は、一定の日を基準日と定め、その基準日に会社の株主名簿に記載・記録されている株主を基準日株主として、株主としての権利を行使することができる者と定めることができる、とされています(実際には株式振替制度が実施されていて、会社が直接株主名簿を管理しているわけではありません)。

 そこで、定時株主総会を招集しようとする会社は、この制度を利用して、対象事業年度の最終日であるその年の3月31日を基準日とし、同日現在で株主名簿に記載・記録されている株主を基準日株主として、株主総会において議決権を行使することができる者と定めて、株主総会を開くことになるのです(同様に、臨時株主総会を開く場合にも、そのための基準日株主を定めることになります)。

 会社にとっては、その年の3月31日現在の株主を基準日株主として定時株主総会に集まってもらって報告し、決議をしておけば、それ以上の責任を追及されないということになります。したがって、例えば、株主総会の開催日が6月21日だとした場合、4月1日から6月20日までの間にその会社の株式を取得して株主となった者から定時株主総会に出席したいという要求があっても、会社はこれを拒絶できる半面、4月1日から6月20日までの間にその株式を売ってしまって、もはや株主ではなくなった者であっても、基準日株主ですから、株主総会への出席を認めて、議決権を行使させなければなりません。

基準日株主の議決権行使には期間に制限がある

 このように、株主総会では、基準日株主が株主総会に出席して議決権を行使することはお分かりいただけたと思いますが、それでも、まだ、なぜ6月下旬なのかということは明らかではありませんね。

 定時株主総会が6月下旬になってしまう最大の理由は、基準日株主が株主総会に出席して議決権を行使することができる期間に制限があるからです。株式は原則として譲渡が自由なので、株主の構成は日々変動しています。例えば、3月31日現在の株主を基準日株主として議決権を行使させるのに、その株主総会が12月下旬だったらどうでしょうか。約9カ月もたってしまっていて、株主構成が大きく変化している可能性もあります。12月下旬に開催される株主総会で3月31日現在の株主に議決権を行使させるのは、社会的に相当とはいえないでしょう。基準日株主を定めた以上、その基準日からあまり離れていないところで株主としての権利を行使してもらうのが相当です。そのようなことを考慮して、会社法は、基準日株主が行使することができる権利は、基準日から3カ月以内に行使するものに限ると定めています。したがって、3月31日現在の株主を基準日株主として株主総会で議決権を行使してもらうためには、3カ月の期間内である6月30日までに株主総会を開催することが必要なのです。

会社にも準備の都合がある

 ここまでお読みいただいた皆さんから、それなら5月下旬でもいいはずなのに、なぜ、6月下旬なのか、という厳しい突っ込みが出てきそうですね。理屈では、基準日から3カ月以内であれば問題はないのですが、実は、会社側の事情が関係しているのです。

 これまでにもお話ししましたが、定時株主総会では、会社の1年間の事業活動状況や、その収支の決算状況、事業年度最終日(ここでは3月31日という前提)現在の財産状況などを報告するとともに、剰余金の配当(株主配当額)などについて決議することになりますから、株主総会までには会社の決算状況や財産状況を確定させて、報告や決議の準備をしなければなりません。まず、会社は、決算報告書や貸借対照表などを作成しなければなりませんが、規模の大きな会社になればなるほど、その作成に時間が必要です。

 さらに、会社が決算報告書や貸借対照表を作成して報告したとしても、株主は、そのほとんどが会社の経理などについては素人ですから、その正確性などをチェックすることができません。この欠点を補うために、会社法は、会社がこれらの計算書類を株主総会に提出する前に、監査役や監査役会、会計監査人などのチェックを受けなければならないものとしています。もちろん、監査役や監査役会、会計監査人などは、会社経理のプロとはいっても、膨大な書類や資料をチェックして監査を行うためには、それなりの時間が必要です。一般的に、このような計算書類の作成やチェックには1カ月半から2カ月くらい必要だといわれています。

 また、会社法は株式を売買することができる公開会社では、株主総会の会日の2週間前までに、株主に対し、株主総会で報告する事業報告や計算書類などの概要が分かるような資料を添付して、招集通知を発しなければならないと定めています。この招集通知を欠くと法令違反になり、その株主総会でなされた決議には瑕疵(かし)があることになり、株主総会決議取消しの訴えが可能になってしまいます。

 これまでのところを整理しておきましょう。

 多くの会社で定時株主総会が6月下旬に集中するのは、事業年度を4月1日から翌年の3月31日までとしていて、その事業年度が終了すると、会社法の定めで、それから3カ月以内に株主総会を開催しなければならないからです。会社は、株主総会のために計算書類などの作成や法定によって監査のチェックが必要であり、そのために約2カ月弱の期間が必要ですし、さらに、株主に対する株主総会の招集通知で2週間が必要なので、株主総会の開催日はどうしても6月中旬以降にせざるを得ません。そして、少し余裕をみて、6月下旬を開催日としているのです。

 仮に、会社の事業年度を1月1日から12月31日までとすれば、その定時株主総会は翌年の3月下旬頃に開催されることになるでしょう。最近では、機関投資家の株主総会分散の要望などを受けて、事業年度を4月開始ではなく、他の月からの開始とする会社も出てきています。そう遠くないうちに、株主総会は6月下旬に集中していたということが昔話になってしまうかもしれません。

 それでは、今回はここまでとさせていただきます。お読みいただいた皆さまに感謝いたします。

【筆者略歴】

須藤典明(すどう・のりあき) 日本大学大学院法務研究科教授。司法研修所教官(民事裁判・第一部)、東京地方裁判所部総括判事、法務省訟務総括審議官、甲府地方・家庭裁判所長、東京高等裁判所部総括判事などを経て、現職。弁護士。

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