経営努力で消費者と農家つなぐ 地域再生大賞の「陽気な母さん」

 秋田県大館市の郊外、幹線道路沿いのよくある食品スーパー、といったたたずまいが私たちを迎えてくれた。店内は地元農家が丹精込めた野菜や果物でいっぱい。お総菜や地元のお店から仕入れたお菓子、雑貨も並ぶ。2017年度の「地域再生大賞」を受賞した地元農家の母さんがつくる「陽気な母さんの店」を訪ねた。

「消費者との溝」に危機感

 私たちが訪ねた昼下がり。イートインコーナーでは、老夫婦がうどんを食べているところだった。こんなほのぼのとした風景に苦難の歴史あり。大げさに言うと大変な苦労の末に「陽気な母さん」は生まれた。
代表取締役の石垣一子(いしがき・かずこ)さん(65)が「直売活動」を始めたのは1974年。リンゴ農家に嫁ぎ、免許を取って軽トラで村々を売り歩いたのが始まりだった。
「リンゴじゃなく、トマト、キュウリ持ってきて」。高度成長期のど真ん中。農家の主婦が工場に働きに出て、農村を回っても昼間、人がいない時代だった。「農家の主婦が野菜を買う大変な時代になった」と思い、地元の婦人会と話し合って取り組み始めた直売活動が今につながっている。
陽気な母さんは、とことん考え抜いた。「日本の農業は農協や業者を相手にしているうちに消費者の声を聞くことがなくなっていった。生産者と消費者の溝が深くなった」と石垣さんは言う。「ただ売るだけではなくて、消費者の食の安全を守りながら『思い思われる』関係にならないと」

「消費者と農家は『思い思われる』関係」と語る代表取締役の石垣一子さん

仲間の声援で改革に着手

 その後、悩んだ末に直売所は法人化。3代目の会長として迎えた2015年度、売上高が2億3千万円を記録した。「でもそのとき実は利益がマイナスだったんだー」。法人化で組織が大きくなり、働く主婦たちの待遇も改善した。ところが総菜部門が赤字に。売り上げが5千万円あり、地元の主婦の強い味方でもあった総菜部門を切るわけにはいかない、と思い改革に着手した。
これまで従業員だった雇用関係をやめて会員になってもらい、厨房を貸す形にした。いわば分社化だ。そして売り上げの一定額を受け取る形に変えた。さらに、家と同じ手作業だった調理を、業者を呼んで最新設備の使い方を研修し、効率化を図った。
2018年度も赤字。「地域再生大賞をいただいて赤字では申し訳ない。逃げ出したかったけど、総会で『頑張ってけれ』と言われた」のが原動力になった。

海外から190人訪問

 陽気な母さんたちは忙しい忙しい。この日も台湾から高校の校長たちがやって来て、きりたんぽ作りやそば打ち、リンゴの収穫など、体験学習の内容を調べていった。昨年は海外から190人が訪問。地元の体験学習のお客も、多いときは1日3回引き受ける。
これからは人口減少で客の足を増やすことは大変だ。人のいるところに販売に行こうと、サークル活動をしている老人のグループがあると聞いて、食品会社からキッチンカーの提供を受け、移動販売に取り組む。買い物難民のお手伝いだ。「次はみそ味のきりたんぽを冷凍して沖縄で売りたい」。消費者のニーズを読み取る陽気な母さんの経営努力が、地元の農業と消費者をつないでいる。

地域づくりの輪広がる

 「陽気な母さんの店」は2017年度の地域再生大賞に輝いた。同賞は、地域づくりに取り組む団体にエールを送ろうと、地方新聞社と共同通信社が2010年度に設けた。毎年、各紙が都道府県から原則1団体ずつ計50団体を推薦し、専門家でつくる選考委員会が審査にあたる。活動分野は産業振興や文化・伝統の保護、子育てや介護など多彩で、地域づくりを考える輪が広がっている。
第9回となる今回の大賞は、通訳などの活動で外国人と地域をつなぐ「多言語センターFACIL(ファシル)」(神戸市)が選ばれた。2月8日、都内の都市センターホテルで表彰式を開催した。
(編集部 佐藤 雄二郎)
※大賞の詳細については「47NEWS地域ページ」から。

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