今も大地が隆起し続ける「高知県室戸」 室戸ジオパークで大地と共存するヒントを探る

 四国の東南端に位置し太平洋に面した高知県室戸市。海洋深層水やキンメダイでも有名な室戸だが、実は世界中の地質学者や地理学者が注目する地であることをご存じだろうか?

■室戸は今も大地が隆起し続けている

 日本列島は「北米プレート」「太平洋プレート」「ユーラシアプレート」「フィリピン海プレート」の4枚がぶつかりあう場所に位置し、世界有数の地震・火山大国。フィリピン海プレートが日本の大地をグイグイ押して、海底から隆起した地面が日本で最初に地上へ出てくるのが室戸なのだ。

 また、室戸岬から西側の地域には、かつて海底の平坦だった部分が隆起し続け「海成段丘」と呼ばれる台地が形成されている。日当たりと水はけが良い海成段丘は、室戸の人々においしい農作物を作る知恵を与えた。

海成段丘が広がる室戸

 室戸の土地の特徴は、なんと言っても隆起の速さだという。隆起によって海中にできた新しい地層が日本で一番早く地上に現れ、その地層を調べることによって、古い地層がどのようにできたのか知ることができるのだ。つまり、日本の大地のルーツを探るヒントが隠されている。

 海洋深層水や深海に生息するキンメダイが、室戸の近海で 取れるのも、隆起し続け断崖絶壁になっている海中の地形を生かしたものである。このように、室戸の人々は隆起し続ける大地で、その地形や地質の特性を巧みに利用して暮らしている。

 室戸には「室戸ユネスコ世界ジオパーク」がある。「ジオパーク」とは「地球・大地の公園」を意味し、地球活動が生み出した地質や変動した地形の上に広がる豊かな自然と、そこに深くかかわってきた人々の暮らしや歴史、文化に触れることができる場所である。ユネスコ世界ジオパークは室戸をはじめ、国内に9地域ある。

 ジオパークと聞くと“公園”と想像しがちだが、室戸の隆起し続ける大地と、その地形や地質の特性を巧みに利用してきた人々の暮らしが体感できる広大な場所なのだ。

 ジオパークには「サイト」と呼ばれるスポットがたくさんあるので、いくつか紹介しよう。

■室戸岬

 室戸を訪れたら、必ず訪れたいのが室戸岬。室戸岬を観光するなら、地元のガイドと一緒にまわるツアーがお勧めだ。海岸に悠然と現れる岩をはじめ、室戸がどのように隆起し、人々がどのように暮らしてきたかなど、大地と人々の関わりもガイドは教えてくれる。室戸のルーツを探る旅はここからスタートだ。

展望台から見た室戸岬

 室戸岬サイトには「深海」「亜熱帯性植物」「大地の誕生」「マグマ」の4つのゾーンがある。室戸半島の最南端で太平洋に突き出した「深海ゾーン」では、約1,600万年前に深さ4,000mに降り積もった砂や泥の層(タービダイト層)に触れることができる。かつては海底だった層が隆起して、海の上に顔を出したもので、海底の生物が這った形跡も残る。地面から突き出した岩には圧倒される。また、岩に根を張るアコウの木は神秘的で、不思議な物語の世界に出てきそうな雰囲気だ。

タービダイトは迫力満点
根を岩に絡ませるアコウの木

 室戸岬ガイドツアーは、9時~17時まで。コースはこちらの都合に合わせてくれるため、相談の上、ガイドと一緒に回ってみよう。数千万年の大地の営みを体感すると、われわれは大地に生かされていることを再認識するはずだ。ガイドの予約や問い合わせは室戸ジオパーク推進協議会まで。

 室戸岬では、太陽が海から昇り海に沈む。パノラマの海にも向き合ってみよう。

■室津港

 海に囲まれた室戸は漁業が盛んな町。室戸の室津港は、かつてマグロの遠洋漁業が盛んで、漁港付近に広がる飲み屋街は、漁師たちによって活気に満ちあふれていたという。今もなお、室津港周辺には昭和の香りが残る飲食店が並ぶ。

 室津港は周辺の道路や宅地と比べ、船が停泊する場所が7~8mも下にある。室津港は岩盤を掘って作った「掘り込み港」と呼ばれ、江戸時代の1679年に開港した。

周辺と比べ7-8mも低い室津港

 室戸は地震の影響を受けて大地が隆起する地。室津港は1707年の宝永地震で1.8m、1854年の安政地震で1.2m、1946年の昭和南海地震でも1.2m隆起した。地面が盛り上がると、岩盤を掘って作った港も海抜が高くなり、海水が海に流れ出し、停泊している船は座礁する。室津港の人々は、大地が隆起する度に港の底の岩盤を掘り下げてきたため、海面をはるか下に望む独特の漁港となった。今後20年以内に発生するといわれる南海トラフを震源とした大地震で1m近く隆起すると、港の底を掘り下げる工事が再び必要となる。

 地元の人は室津港周辺を「港の上」と呼ぶ。港の上は、いまでも室戸の食べ処・飲み処となっている。

■唐谷の滝

 室戸市佐喜浜町の山奥に、枕状溶岩(まくらじょう・ようがん)の上を流れる日本でもめずらしい“滝”がある。枕状溶岩は、海底火山が噴火し海水で急速に冷却されてできた溶岩で、枕や俵が積み重なったような形状をしている。

 「唐谷の滝」は、隆起した岩盤の柔らかい部分が浸食されて谷になり、そこに水が流れ込みできたものと考えられている。約3,400万年前から4,800万年前を示す化石が見つかっており、海底の岩が作りあげた滝を見上げると、改めて大地の躍動を実感する。

枕状溶岩が作り上げた唐谷の滝

 唐谷の滝は「雌滝」と「雄滝」の二の滝がある。雄滝は林道から清流を約250m登ったところにある。二つの滝に向かうルートは、ひたすら沢を登るもので、途中に整備された道や手すりは一切ない。手付かずの自然が残る沢を登り滝を目指すのだ。携帯の電波も届かないため、必ずガイドと一緒に登ること。沢登りが好きな人には絶好のスポットだろう。

■佐喜浜 土佐備長炭

 室戸には備長炭の原料となるウバメガシやカシの木が自生している。土佐備長炭のルーツは、和歌山の炭焼き職人「植野蔵次」がお遍路で室戸を訪れたことから始まる。室戸の人々がウバメガシを薪(たき木)に利用しているのを見た植野が、1907年頃に再訪し備長炭の技術を伝えたとされる。その製法は現在も伝承され、土佐備長炭は紀州備長炭と並んで、国内外で高い評価を受けている。

土佐備長炭作りは大地の恵みを利用した佐喜浜の文化

 この地で約30年前から土佐備長炭を作る杉本正一郎さんは、炭焼きの窯から自身で作りあげた。ウバメガシやカシの木の伐採も行う杉本さんは、現在は二つの窯を使って最高級の備長炭を作る。土佐備長炭は硬く、叩くと金属に近い音が出る。備長炭同士がぶつかると「キーン」と心地よい音色を奏でる。

 最近では、土佐備長炭の価値が認められ高値で取引されるようになった。土佐備長炭を作る職人も増え、室戸の伝統産業を未来に継承する。

 佐喜浜町には、杉本さんが作った炭の資料館「炭の家 ほのぼの」がある。日本の伝統産業「炭焼き」を見学し、土佐備長炭の歴史にも触れてみよう。

■室戸の魅力を発信し続ける「室戸びと」達

(1)キンメダイの釜飯も!「釜飯 初音(はつね)」

 室戸沖には海底火山が隆起した大正礁があり、高級魚「キンメダイ」の漁場が広がる。キンメダイは水深360mの深海にいるが、室戸の港から1日で往復できる距離に漁場があり、鮮度の高いキンメダイを手軽に味わうことができる。新鮮なキンメダイは隆起し続ける室戸ならではのグルメだ。

室戸のキンメダイを使った釜飯は絶品

(2)海の駅「とろむ」でカツオのたたき作り体験も

 室戸岬新港にある海の駅「とろむ」では、高知名物のカツオのたたき作り体験ができる。カツオのたたきは、新鮮なカツオを藁(わら)を燃やした強火で一気にあぶって作るもので、そんじょそこらで体験できるものではない。

 軽く塩を振った新鮮なカツオを藁の強火で一気にあぶる。分厚く切ったたたきを、焼き目がホロホロで温かいうちに、塩を付けてガブッと食べる。塩で、ニンニクスライスと一緒に、ポン酢で。お好みの味で食べる“出来立てのタタキ”は格別だ。

カツオのたたき作り体験は迫力満点
皿に盛り付けてカツオのたたきの出来上がり~

 

 今も動き続ける海底のプレート。地球は常に動いている。地球は動き、その上で暮らすわれわれは揺れる地面と共存していかなければならない。室戸の人々は大地と関わり、その価値を理解し利用してきた。室戸ジオパークに行けば未来へのヒントが見つかるはずだ。

 

 室戸ジオパークの情報が一堂に集まる「室戸世界ジオパークセンター」では常設展示のほかに企画展も開催している。現在は、「企画展 地球×ちきゅう」が2019年1月31日まで開催され、地球深部探査船「ちきゅう」のミッション「巨大地震の謎を解く」「生命の謎を探る」「マントルまで掘る」「地球の歴史を探る」について、パネルや映像でわかりやすく解説されている。1月26日には、JAMSTEC(海洋研究開発機構)の研究者が「海底の地下2kmでも生きる微生物の不思議」を紹介するイベントも予定されている。厳しい環境でも生きる微生物や身近な微生物について聞ける貴重な機会なので、子供と一緒に訪れてみよう。

 室戸までなかなか行くことができない人にお勧めなのが、東京・秋葉原の「日本百貨店しょくひんかん」だ。11月には室戸フェアも開催し、今も常設商品として室戸の自然を生かした食材が並ぶ。室戸ジオパークをぜひ味わってみよう。

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