横浜にも増える夢の跡? 空き家にしない知恵学ぶ

およそ330年前、松尾芭蕉は、藤原三代(清衡・基衡・秀衡)の栄華が忍ばれる平泉(岩手県)を訪れ、「秀衡が跡は田野になりて、金鶏山のみ形を残す」「義臣(弁慶ら)…功名一時の草むらとなる」と嘆息し、有名な「夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡」の一句を俳諧紀行『奥の細道』に残した。 

藤原三代の栄華や義経・弁慶の赫赫(かっかく)たる武勲の儚(はかな)さを夏草に見た芭蕉が、もし現代の横浜に現れ、庭の草木ボーボーの空き家群を目にしたら、どんな一句が浮かぶだろうか―。そんなことをつい想像してしまう空き家をテーマにした「今から備える不動産利活用フォーラムin横浜」(主催・神奈川新聞、テレビ神奈川)が9月8日、横浜市内で開かれた。約250人が参加した。 

日本の空き家は約820万戸(2013年)。全住宅の13・5%を占める。20年前に比べ倍以上、空き家が増えている。空き家問題に詳しい牧野知弘・オラガ総研代表取締役がこの日の講演の中で紹介した予測データによると、このまま現状を放置すれば、15年後の2033年には、空き家は2000万戸を超え「3軒に1軒が空き家になる」(空き家率30%超)という。あくまで予想だが恐ろしい数字で、のんびり手をこまねいているわけにもいかない。 

特に深刻なのは東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪などの都心部。この日現状を報告した神奈川県や横浜市の担当者の報告によると、神奈川県の空き家数は約49万戸(2013年)で東京、大阪に次ぐ全国3番目の多さ。横浜市では平成10年以降、住宅数が世帯数を上回る状態が続いている。 

このように空き家が増えるとどんな問題が起こるのか。神奈川県の担当者は、管理者不在による家屋の倒壊や崩壊、屋根・外壁の落下、火災の発生など防災上の問題のほか、景観の悪化、ゴミ捨場や犯罪に利用されるおそれーなど挙げた。 

フォーラムでは、これらの難題を引き起こしてしまう空き家問題への対策を司会の牧野さんを含め5人の識者がさまざまな視点から議論した。牧野さん以外のパネリストは実家の処分で苦労した体験を持つ女優いとうまい子さん、横浜市立大国際総合科学部教授の齊藤広子さん、NPO法人横浜プランナーズネットワークの古居みつ子さん、ファイナンシャルプランナーの橋本秋人さん。 

芸能界入りして 東京に家族で移り住んだため、鉄筋コンクリート造りの立派な愛知の実家を長年放置してしまったいとうさんは「屋上の排水溝に枯葉が積もってしまい、天井から雨水が漏れて一部の部屋が幽霊屋敷みたいになってしまった」と振り返り、処分に苦労した経験を披露。空き家で苦労した経験者の一人として「早め早めに信頼できる専門家に相談するのが望ましい」とアドバイスした。 

齊藤さんは「空き家問題というと暗くなりがちだが、空き家を街の魅力を高める“地域の拠点”にすることもできる」と指摘。空き家のシェアハウスへの転用など大学生の柔軟な発想を取り入れた空き家の活用事例などを紹介した。古居さんは行政と協力し、空き家の所有者と空き家の活用を希望する事業者らをつなげる自身の活動を報告。交流施設や生活支援施設など行政サービスを補完する公共的なサービスの拠点として空き家をうまく活用したい、と話した。 

橋本さんは空き家に置きっぱなしの物は、最後に十把一絡げに家ごと処分する羽目に陥らないよう「処分できるものは少しずつでも処分したほうがコスト的に賢い」と、余計な費用をかけない空き家対策上の工夫をいくつか説明した。 

牧野さんは「空き家は個人とともに地域の問題でもある」と述べ、地域住民や行政、大学、学生、専門家ら関係者が力を合わせ、今ある住宅を空き家にしない対策の重要性を強調した。 

松尾芭蕉と並んで人気の江戸期の俳人・小林一茶に空き家の句がある。江戸の長屋で貧乏暮らしをしていたころの句だ。 

雪ちるやきのうふは見えぬ明家札 

「明家札」(あきやふだ)とは、夜逃げした隣家の戸にぶら下がっている「空き室あります」の札。雪の降る朝、起きぬけにその札を見つけた一茶の目に、昨夜黙って去った隣人一家の姿がふと浮かぶ。 

周囲に空き家が増えたら現代人の感慨も一茶とそう変わらないだろう。現代の空き家を「句題」に競ったら、顕官・英雄を思った芭蕉より、庶民に心を寄せる一茶に軍配が上がる気がする

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